J-POP、ロック、アニソン…、あの楽曲をプロの絵師が描くと? 「絵師×歌詞」の世界【担当編集者に聞いてみた】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

歌の世界を綴っている「歌詞」。同じ歌詞でも、人によって感じ方や浮かぶ光景が違い、1人1人にオリジナルの世界を作ってくれる。ふとした時、自分が聴いている歌詞は、別の人にはどのように映っているのだろう?と気になってしまうことがある。

そんな、別の誰かの中の世界を覗き見ることができる、面白い本を発見した。『絵師×歌詞 雨編』(サイドランチ)、『絵師×歌詞 花編』(サイドランチ)だ。この本では、「雨」そして「花」にまつわる名曲を、「絵師」たちがそれぞれ解釈してイラストで表現している。世界観や人物を絵で表現する「絵師」たちには、どのような世界が見えているのだろうか。

この本を見て読むことで、歌詞の世界をイメージし、何か1つでも新しい“偶然の出会い”や“感動”が作れたら……。そんな想いでこの本を作ったという担当編集者に、オススメの曲をいくつか紹介してもらった。

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まずは「雨編」。

100mmの雨~雨男村の子守歌(歌:たま/イラスト:碧風羽)(P.20~P.21)

「たまの曲は歌詞が深く魅力的で、熱狂的なファンがついています。歌詞を見ながらじっくり聴いてほしい曲です。また、このイラストを描いてくれた絵師さんもたまファンの一人で、力を入れて描いてくれた作品です。この絵師さんは、この絵のために“この世で一番苦手な生き物”であるかたつむりとにらめっこして頑張ってくれました(笑)」

幻想的で神秘的な、雨に濡れた女性。この曲を担当した絵師も、本書の中で「聴く人によって、様々な解釈ができそうな歌詞が魅力」と語っている。一筋縄ではいかない、気持ちをはかれない女性に対する男性の心を映している、切ない曲。

雨は憶えているでしょう(歌:畠山美由紀/イラスト:実田くら)(P.48~P.49)

「背景がとても上手な作家さんなのですが、背景の作家さんってあまりスポットを浴びる機会がないので、この本でぜひ描いてもらおうと思ってお願いしました! 雨と光という歌詞の中の世界が、とても美しく表現されていると思います」

暗い、重いものとして描かれることが多い雨だが、この歌詞の中の雨は少し違う。「天空の絹糸」「あの人の優しい 眼差しのように あたりをひたしていく」と、とてもやわらかい優しいものとして描かれているのが印象的な一曲。

続いて、花編。

アネモネが鳴いた(歌:大橋トリオ/イラスト:フライ)(P.40~P.41)

「アネモネの花に囲まれて寂しそうにしている少女のスカートもアネモネに模していて、彼女自身がアネモネの象徴になっているという表現がとても好きです。曲も歌手も知らなかったのですが、このイラストがきっかけで初めて聴き、いい曲だなと思いました。今まで知らなかった曲を好きになる、というこの本のコンセプトを私自身が達成した曲です」

愛する人をアネモネの花にたとえている、鮮やかな曲。「自然」や「時の流れ」という大きなものを感じながら前を向いていて、その中心には変わらないアネモネの彼女がいる。本書内の絵師さんのコメントにもあるが、この曲を聴いていると、私も頑張ろうと気分が晴れやかになってくる。

Guru最終形(歌:筋肉少女帯/イラスト:絹田コウジ)(P.104~P.105)

「読者から『曲リストを見た時に、この曲が入っていて驚いた。歌詞が大好きな曲なので嬉しかった。表紙のイラストもGuruだとわかって二度びっくり』と言われました。絵師さん含め、ファンからは厚い支持を得ている曲のようで、でもそれほど一般的ではないので驚かれたようです」

この「Guru」という曲には別バージョンもあり、最終形ではない「Guru」には語り部分があるそう。「花編」の表紙は、この曲の語り部分に出てくる双子をイメージして描かれているとのこと。

この曲の魅力は、浮かぶ情景の幻想的な美しさ。「植物園」「ミルクドレス」「血みどろ」という様々な色合いが美しく、けれどどこか毒々しくぶつかり溶け合って、繊細さを生み出している。「Guru最終形」だけではイラストの女の子が「血みどろ」な理由や表紙の意味がはっきりとは分からないが、語り付きの方の「Guru」をあわせて聴くことで、より多くのものが見えてくる。

どの曲にも、それぞれ様々な想いを持っているファンがいて、そんな本当に好きで聴いている人が描いたからこそ、イラストから伝わってくるメッセージもまた強い。この本には、歌詞の世界に絵師の想いが重なった、唯一無二の世界を覗き見られるという楽しさがあった。まさに「歌詞×絵師」!

この『絵師×歌詞 雨編』、そして『絵師×歌詞 花編』には、他にも懐かしい曲からあまり知られていないような曲、アニソンまでぎっしり詰まっている。曲を聴いて選ぶのもいいが、本書で歌詞を見て、絵師が描いた世界を見て、そこから入ってみるのもいいかもしれない。

文=月乃雫