DV夫に”アイロン型の火傷”を負わされた女性も…被害者の逃げ場「DVシェルター」の悲惨な実態

社会

公開日:2016/9/9


『DVシェルターの女たち』(春日野春子/彩図社)

 『DVシェルターの女たち』(春日野春子/彩図社)を開けば、いきなりきつい描写が書かれている。

ガリガリにやせて小さくなった老婆。
毛布をかぶってベッドの上から動かないイモムシ女。
サンダルをはいた女たちが、ゾンビのようにヒタヒタと歩いている……。

読み始めなのに、思わず本を閉じたくなった。

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 本書は、夫からDV被害を受けた春日野氏が、DVという犯罪の怖さとそこから立ち直ることの難しさを訴えたノンフィクションドキュメンタリーだ。本書のタイトルでもある「DVシェルター」とは、DV被害を受けた女性が保護される施設のことだ。行政施設と民間施設の2種類があり、どちらも暴力夫が追いかけてこないよう、その情報は公になっていない。シェルターの内部、入所してくる女性たち、その後の生活など、ほとんど描かれることのない世界について書かれている。

 本書の始まりは、DV夫と結婚し、DV被害に遭い、DVシェルターに保護してもらうまでの生々しい過去が書かれている。読んだ感想を言うと、まるでホラーだ。人として気になる部分はありつつも、出会った頃は優しかった夫。しかし、結婚した途端に豹変する。何でもないことに激怒。生活費は一切入れない経済的DVも始まる。そして、ある日突然始まった暴力…。DV夫の恐ろしいところは、いつも暴力をふるう人間ではないことだ。暴力をふるった後や機嫌のいい日は優しい夫になる。しかし、ちょっとしたことで機嫌が急変し、再び暴力をふるわれる。この恐ろしい緊張と緩和によって、妻は心を縛りつけられ、壊されていく…。暴力は日に日にエスカレートし、ある日、血だらけになるまで暴力をふるわれて、ついに逃げ出した。

 なんとかDV夫から逃げ出し、弁護士や警察に相談して、そこで気づいた。「これからどうしよう」「どこへ行こう」。ホテル住まいではあっという間に散財してしまう。友人を頼っても、あまりに痛ましい容姿、そしてDV夫が追いかけてくる可能性を考えると…。そのとき弁護士から「保護してもらいましょう」と言われて行くことになったのがDVシェルターだった。警察の車に乗せられて、DVシェルターへ話は移る。しかし、このDVシェルターの生活でも生々しい描写が数多くあった。

 施設内部には、トイレ、共同浴室、テレビ付き喫煙室、食堂、カウンセリングルームなどがあるという。外部との通信手段は携帯電話と公衆電話だけ。さらに携帯電話も必要なとき以外は職員が預かるシステムになっているようだ。無機質な生活空間が頭をよぎる。まさに「シェルター」だ。生活のタイムスケジュールは、食堂での1日3回の食事。昼食と夕食の間に洗濯したり入浴したり、用があれば外出もできる。寮生活のようだ。もちろん、そんな楽しいものではない。苦痛に満ちている。

 入浴のときの描写はかなり辛い。みんな裸になるので、DVで受けた傷があらわになる。アイロン型の火傷の跡がある女性。殴られすぎて、友禅模様のように、黄色から紫、黒、青など、まだらな肌色をした女性。春日野氏は、この地獄絵図を「ケガの博覧会」と称している。

 入所した女性たちは、みんな男から逃げてきている。したがって、身支度の用意をまともにしていないままやってきた女性が多い。特に経済面に関しては、大半の女性が困窮しているようで、シェルター内での窃盗は多々あったようだ。また、精神を壊されるまで暴力を受けているので、耳をすませば、すすり泣く女性の声が聞こえてくる。読み進めて、言葉がなかった。彼女たちは地獄を経験してきたようだが、私にはDVシェルターが地獄の休憩所に思えてならなかった。

それでも数多くの女性を助けている「DVシェルター」は素晴らしい施設だと思う。しかし至らないところも多々あるように思う。本書を読めば分かるが、職員たちは事務的な対応しかせず、むしろなるべく関わろうとしなかったらしい。人間としていかがだろうか。そしてもう1つ気になったことがある。このシェルターの入所期限は2週間だ。あまりに短い。そんな短期間では回復など見込めない。そもそもたった2週間では、回復しても、これからの生活の準備ができない。まさに地獄の休憩所だ。このシェルターでは都の税金が使われているそうだ。ならば、なぜもっと金をかけないのか。しょうもないことに使わず、このようなところに税金をジャブジャブ使うべきだ。政治資金なんてくだらないことのせいで、何人の女性が悲惨な結果に終わっただろうか。

 さらに、どうしても書きたいことがある。「DV二次被害」だ。DV被害者を一般人が助けることは難しい。「いつでも電話していいよ」なんて軽口を叩いて、本当にDV被害者が電話をしていたら、うっとうしがられて電話に出なくなるということがあるらしい。DVの現実を知らないアホが相談を持ちかけられて「本当はあなたが悪いんじゃないの?」という返答をすることもあるらしい。このように、DV被害を誰かに相談して、かえって孤独になってしまうことを「DV二次被害」という。もし、誰かからDV被害の相談を受けたら、一般人であれば解決は困難なので、すぐに一緒に専門機関へ相談しに行ってほしい。誰もが「DV二次被害」をやってしまう可能性があるのだ。

 私としては、まだまだ書きたいことが山ほどあったが、感じ方や考え方は人それぞれだ。まずは本書を手にとって、DVという非道な問題に関心を持ってほしい。世論が動けば、政治も重い腰を上げるはずだ。先進国と豪語する日本には、救いようのない問題が山ほどある。DV被害者にさらなる救いの手が差し伸べられるのは、いつのことだろうか。

文=いのうえゆきひろ