この世界で生きていく価値は本当にあるのか!? 絶望と希望の物語『カゲロウデイズ』は終盤へ!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『カゲロウデイズⅦ-from the darkness-』(じん(自然の敵P)/KADOKAWA)

前巻の発売から1年5カ月、待ちに待った、小説『カゲロウデイズⅦ-from the darkness-』が、8月29日に発売された。ボーカロイド楽曲「人造エネミー」の発表から5年。この間、第一作からつながる壮大なドラマを、次々と楽曲にのせて発表してきた、じん(自然の敵P)。作者本人の執筆である小説は、これで7巻目となる。

シリーズの人気のほどは、ひとつの社会現象といってもいいだろう。楽曲三作目の「カゲロウデイズ」が、半年間で100万回以上の再生数となる大ヒット。2012年3月には、本人原作による漫画化をはじめ、「カゲロウプロジェクト」(通称カゲプロ)としてボカロ発のマルチメディア展開が始まる。同年6月には、小説の1巻目にあたる『カゲロウデイズ-in a daze-』が刊行。その後も人気に後押しされ、続々と巻数を重ねている。2014年4月には、「メカクシティアクターズ」のタイトルでアニメ化され、その前衛的な作りも話題となった。

主役は、目に宿る特殊能力を持つ、またはその秘密を知ってしまった少年少女たち。キド、セト、カノ、マリー、モモ、エネ、シンタロー、ヒビヤ、コノハたちだ。能力や心の傷などが理由で、周りの人、いわば普通であることから排除された彼らが、「メカクシ団」としてつながりを持ち、自分たちに能力を与えた存在の秘密に相対していく物語となっている。彼らの能力は、「目」に関係していて、人から注目されすぎたり、見つめた者が石になったりといったものだ。特殊能力というとファンタジーじみているが、彼らは皆、この本を読む私たち読者と同じだ。孤独で、人間関係に悩んでいて、アクが強かったり、でもちょっといいヤツだったり……。世界はみんな敵で最悪と思っていたけれど、生きてみるのも悪くないかなという希望が要所にきらめく。

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本書は、物語のクライマックスへの序章ともいえる内容。団長であるキドの物語、特殊能力の鍵を握る黒幕のアジトへの潜入、そして黒幕を操る漆黒の闇の存在。前巻までで、「えっ、この先どうなるの?」「これは何?」と、読者を翻弄してきたパーツが、ようやくひとつの輪につながってくる。「だからあの時、そう言ったんだ」「だからあの時、そうなったんだ」とさまざまな謎が明らかにされるのだ。

カノとセトと出会う施設にやってくる前のキドに、何があったのか? 崖下でシンタローの下敷きとなったコノハから出てきた黒い「蛇」とは? 2人の再会時、コノハが放った衝撃の一言の意味とは? アヤノが死ぬ前にシンタローに言った言葉の真実とは? 「カゲロウデイズ」はどうなるのか?――

あとがきによると、本書の次の巻が最終巻とのこと。「カゲロウデイズ」に終わりはくるのか? 「メカクシ団」の皆はどうなるのか? 謎を解き明かして物語全体をわかりたい! 今年度冬には映画化も決まっており、新作アニメのタイトルも発表された。こうなると、小説はやはり必読。ラストまで共に走るしかない。

文=奥みんす

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