猫ブームの今日に光る“愛パグ家”の日常4コマ

マンガ

公開日:2016/9/11


『パグまんが めー語』(よしこ/河出書房新社)

 猫ブーム、続いているようですね。ある試算によれば、ネコノミクスと称される経済効果は、2015年だけでもおよそ2兆円に上るんだとか。そのうち飼育費用や関連書籍の売り上げといった「直接効果」だけを見ても、優に1兆円を超えるんだそうです。

 とはいえ、1兆円がどのくらい かピンと来ない、庶民の私。調べてみたら、あの白紙撤回された新国立競技場。当初予算より膨らみすぎだと騒がれた、流線型が特徴のデザインのアレの総工費が、2500億くらいだったようです。…4つ、造れてしまいますね。いやはや、凄い金額です。

 まさに、猫も杓子もの、猫ブーム。写真集やエッセイといった動物関連本の出版にも、にゃんこの大波が訪れていることは、書店を訪れる皆様ならごぞんじかと思います。しかしそんな中でも、いや、そんな中だからこそ、キラリと光る“にゃんこ以外”の動物本も、数多く世に出ているこの頃。今回は、猫派を自認する私がココロ動かされた、キュートなわんこの本のご紹介です。

advertisement

パグまんが めー語』(よしこ/河出書房新社)は、漫画家のよしこさんによる、愛犬との生活を綴ったコミックエッセイ。FC2ブログやTwitterで人気の4コマ作品たちが、描き下ろしを加えて書籍化されたものです。

 主人公は、9歳になるパグのめーちゃん。好きなものは、食べもの全般。嫌いなものはだっこと高いところ、歯みがきに耳掃除に爪切り、それからお注射。お気に入りのおもちゃは、くまちゃんのぬいぐるみと、人間。人間「と」は遊びたがらないけれど、人間「で」遊ぶのは好きという、ちょっとやんちゃな男の子です。

 パグといえば思い浮かぶのは、やはり皺の深い顔立ちでしょうか。厚みのあるマズルや、ぎょろりと大きなお目々から、何となく怖いイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。でも、当のめーちゃん本人(犬)は、とっても人(犬)懐っこくてマイペース。お散歩や動物病院で初めて会った相手にも、ぺろぺろと積極的にコミュニケーションを取りにいくタイプのようで…彼の辞書に、人(犬)見知りの言葉は無さそうです。

 人間でいえば、60歳近いお爺ちゃんにあたる、めーちゃん。その暮らしぶりはというと、普段はのんびりしているのに、食べものに関する言葉には、驚くほど敏感に反応する。夏は網戸を破り、冬はストーブの番に勤しむ。用を足す時、たまに大と小を間違えて姿勢を取るなど、まさに「わんこあるある」満載といった感じ。愛犬家なら思わず、笑みがこぼれるのではないでしょうか。

 そんな内容も勿論ですが、著者のよしこさんによる可愛らしいイラストも、この本の魅力のひとつです。一見あっさりとした絵柄にも思えますが、弾力のある線は愛を滲ませながら、パグのチャームポイント――ぽっちゃりとしたお腹やフェイスライン、ぺろんと垂れたお耳などを的確に捉えています。ひと続きの線でこんなにも、柔らかさを醸し出せるなんて、スゴい画力です!

 同書には既に公開された作品のほか、ゆるすぎて話が進まない「パグで読む名作劇場」や、マイペースなめーちゃんとお勉強できる「パグで学ぶ授業」といった特集も収録。名前の由来などにも触れた仔犬時代のエピソードのほか、書き下ろしのカラーまんがも掲載されているので、初見の方は勿論、既存ファンの皆さんも満足できるはずです。

 読み終わる頃にはきっと、パグの首回りのたぷたぷや、あたたかい匂いを体感したくなることでしょう。大盛り上がりを狙った逸話や、激しい描写はありませんが、それでもこの本には確かに、五感に訴える何かがあるのです。

 秋の夜にしみる、愛犬との暮らしの記録。めーちゃんとよしこさんの楽しい毎日を、あなたも少しだけ見学してみませんか?

文=神田はるよ