せつなさは誰とも分け合えない? 見落としがちな小さな感情をすくいあげる、益田ミリの“カフェあるある”に共感必至

マンガ

公開日:2016/9/14


『お茶の時間』(益田ミリ/講談社)

 女子のルーティンの一つである、お茶の時間。友人との気軽なお喋りや仕事での打ち合わせ、ちょっと一息つきたい時など、私たちの日常にはとにかくお茶をするシーンが溢れている。一人でお茶をしている時など、つい人間観察を始めてしまうことはないだろうか?

お茶の時間』(益田ミリ/講談社)は、そんな何気ないお茶の時間に焦点をあてた一冊だ。雑誌『esora』に掲載された「益田ミリのお茶のじかん」と『小説現代』に掲載された「お茶の時間」に書き下ろしを加えて出版された。とにかく“カフェあるある”なエピソードが満載で楽しめるが、ゆるいイラストに騙されてはいけない。アラフォー女性の揺れる本音を描いて多くの女性の共感を呼んだ「すーちゃん」シリーズ同様、心の深いところに刺さるような切り口にドキリとさせられる。

 たとえば、駅直結型デパ地下でのお茶の時間を描いたエピソード、「分け合えないもの」。まっすぐ家に帰りたくない日は、一人客でごったがえすデパ地下がちょうどいい。それは著者曰く、大勢の中にいても、森の落ち葉の一枚になったような不思議な静けさを味わえるから。エスカレーター脇の休憩スペースを利用し、一人でお弁当を食べる女性客を見ながら、「むなしさは、誰とも分け合えない」と思いを巡らせる。「人生のむなしさを感じつつデパ地下で休んでいく日が、人にはあっていいのだと思う」

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 スタバで若い女子のふたり組と隣り合わせた時のエピソード、「スタバにて(2)」。同僚らしいふたり組の一人は、しきりに「30歳になったらどうしよう。もう終わりだよね」と繰り返している。彼女はまだ25歳であるにも関わらず。30歳以上の女性にはムカッとくるようなシチュエーションだが、著者は「こんな会話、昔のわたしもよくしてたよな」と温かいまなざしを向ける。著者曰く、彼女は“終わっていない”ことを強調し、スターバックスコーヒー店内での階級が上位であることを、同僚との会話でアピールしているのだという。

 仕事の打ち合わせでホテルニューオータニに行った時のエピソード、「いちごの季節」。名物の3000円するいちごのショートケーキは見るからに美味しそうだがカロリーが高そうで、アラフォーの著者は一瞬怯む。結局「日々、老いていくんだから、一番若い今日食べるのがベスト」と自分に言い聞かせて注文するのだが、すぐにその発言に違和感を覚える。「今日が一番若い日というのなら明日ってなんなのだろう? 明日は今日より劣化した日?」どの自分にも同じだけの価値がある。歳をとってもう大きなショートケーキを食べきれなくなったとしても、その時は誰かと半分にして、その時のベストを楽しめばいい。そんな人生の捉え方には、思わず頷かされる。

 益田ミリ作品の最大の特徴を一つあげるとすれば、私たちが慌ただしい日々の中で見落としてしまいそうな小さな感情を、丁寧にすくいあげてくれること。本書でもそれは健在で、必ず共感できるエピソードが見つかるはずだ。今日の帰り道はお気に入りのカフェで、益田ミリ作品の魅力に浸ってみるのもいいかもしれない。

文=佐藤結衣