海抜0m地帯の“豊洲”はどーなる? 災害研究の重鎮が緊急警告!! 日本で年々現実味を増す「未曾有の大水害」にどう対応すべきか?

社会

更新日:2020/9/1


『日本水没』(河田惠昭/朝日新聞出版)

 2015年9月、茨城県常総市。濁流に押し流されそうな自宅の屋根になんとかよじ登り、上空のヘリコプター救助を待つ住人の姿が一斉に報道された。この豪雨は「平成27年9月関東・東北豪雨」であり、いわゆる「鬼怒川水害」の一場面である。現地では、鬼怒川が決壊、広範囲が水没し、近隣の多くの住宅が浸水した。

 『日本水没』(河田惠昭/朝日新聞出版)――この言葉だけ聞くと、どうしてもこのシーンが想起され、おそろしい未来が浮かんでしまう。

 日本は世界一危険な水害国であるという。台風・洪水・高潮に加え、地球温暖化による「殺人級大雨」「ゲリラ豪雨」・地震が誘発する津波・土砂崩れなどの「複合水害」は、日本列島にいつ来ても不思議はないという。「水」は恵みだけでなく、「害」をもたらすものだということが実感できる。本書では、豪雨や台風のメカニズムから、日本各都市で過去に発生した災害も総括している。けっして想像の世界ではない。非常に現実的なことが述べられており、具体的な策の提案が示されている。

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 とくに東京では「ゼロメートル地帯」が、最も危険な水没エリアだという。平均満潮位より低い土地を「海抜ゼロメートル地帯」という。低地だけでなく東京には地上鉄道線との相互乗り入れが多い巨大な地下鉄道網、地下街がある。高層マンション住人でさえもまず水の供給が滞り、やがて孤立する。仮に東京の荒川が足立区千住付近で決壊すると、氾濫水が3時間後には、千代田区大手町に到達するという(国土交通省関東地方整備局公表)。街には移動困難者があふれることが予想できる。地下鉄トンネル内には水門があるが、浸水が始まる前に余裕を持って閉めることは現実的には困難。にもかかわらず、駅の出入り口に止水板すらないところがあり、あっても不十分。複雑な地下連絡通路網は、超高層ビルの地下と接続している。

 また、「南海トラフ地震」がマグニチュード9で発生した場合、大阪では3.8メートルの津波の来襲が予想され、107の地下鉄駅が水没するおそれがあり、高知市では津波想定が14メートル以上、浸水予想地域も示されている。

 このような自然水害・災害に対し、著者は減災と「防災省」の設立を提唱している。住んでいる土地に関する知識と最新情報や知恵の類を入手しやすくすることは、被害を減らし、被害に遭ったとしても感情を穏やかにするために確実に役に立つ。“みんなで協力して進める縮災”である。2014年広島市の土砂被害も情報をもっと住人で共有していれば、被害を減らせた可能性が高いそうだ。また現状では災害に対する指揮命令系統があいまいなことを是正するためにも、国の機関「防災省(仮)」が機能する必要があるという。

 著者の河田さんは、京都大学名誉教授、関西大学社会安全学部特別任命教授、人と防災未来センター長。日本の災害研究の重鎮である。

 専門学者があくまでデータに基づいて過去の災害を解析し、未来をシミュレーションしているので、まさに実感できる一冊だ。東京で地下鉄の長いエスカレーターを降りながら、この本を思い出し、「自分は生き残れるのだろうか?」とふと背筋が寒くなった。

文=塩谷郁子