人生はいい加減くらいがちょうどいい? 真面目損せずに楽しく生きるためのコツ

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公開日:2016/9/28

『真面目に生きると損をする』(池田清彦/KADOKAWA)

「真面目に勉強しなさい」「真面目に聞きなさい」と親に言われた経験がある人、子供に言っている人、少なくないのではなかろうか。

 とにかく“真面目”であることを大切にする日本人。しかし実際に大人になってみると真面目であれば成功するというわけではないし、不真面目に生きている人が不幸になるわけでもない。そんな現実がわかっても今なお教えられたとおりの道を真っ直ぐに生きようとする“真面目”な人たち。でももし、その頑固とした真面目さが人生を損な道に進めているかもしれないとしたら、それでも真面目に生きたいと思うだろうか。今ちょっと人生を変えたいという気持ちが心をかすめた人におすすめの本がある。良しとされてきた真面目さや正論について人の本心と社会の真実を見抜き、本当に幸せに楽しく生きるための心構えを教えてくれる『真面目に生きると損をする』(池田清彦/KADOKAWA)だ。著者の池田清彦氏は『ホンマでっか!? TV』のタレントの人生相談コーナーなどバラエティ番組にも出演している異色の生物学者である。

 真面目な人はつい自分の人生の目的について考え、人生に意味を与えようとする。著者らにこの悩みを相談した、まさに真面目タイプのSMAP・草なぎ剛のエピソードが本書で紹介されているが、真面目な人たちは誰に頼まれたわけでもないのに自分に使命を与え、実現に向けて頑張ろうと悩み、人生を楽しくないものにしてしまうことがある。池田氏によると生物学的には人に生きる意味などなく、ただ物心付いたときには勝手に生きていただけなのだが。

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 真面目な人たちは生きる目的が見つからないとき、とにかく死なずにいることが人間にとって一番価値あることだと考えてしまうようだ。

 日本では長生きすることが幸せで“死”をタブー視する文化がある。寝たきりでも長寿は表彰される。かつては自宅で家族に看取られながら亡くなることが一般的だったが、昨今は病院や施設で最期のときを迎えることが多く、中には祖父母の臨終に子供をあえて立ち合わせない親もいるという。隠ぺいされる“死”の表で「人の命は地球より重い」という偽善の言説が流通し、命の大切さが掲げられている社会。「大事なことは、人が死ぬのも日常の一こま」であり、「家族に看取られながら死んでいくのは、当然と言うよりもむしろ寿ぐ(ことほぐ)べきことではないか」という著者の言葉にあなたは何を思うだろうか。

 国家財政を圧迫する医療費は高齢化と共に伸び続ける老人の医療費が要因のひとつとなっている。薬を飲んでもさして病状に変化がない老人性の病気にも大量の薬を処方する病院や製薬会社が健康志向の老人たちを煽ることで公的補助金が膨らむと語る著者。

 お酒好きな著者は死にたくないから医者には行かない。ちょっとあべこべのようだが、つまりは医者に行くと飲酒を止められるが著者にとってお酒を飲まないことは死んだのも同然、楽しめない人生は生きていないことと同じということのようだ。「死をむやみに恐れて、いつまでも生にしがみついて、身体は生きていても、心は生き生きと生きているところからはるかに離れた状態になっている」生き方について考えると自然と楽しく生きる術が見えてくるのではなかろうか。

 自由を謳う民主主義国でありながら長い物には巻かれろ思想の日本。多数派のもとでは個人の好みや考えを訴えることは難しい。同じ嗜好品でも事故さえ起こさなければ飲酒者をバッシングする法はないが喫煙者は楽しんでいるだけでも規制がかかる。「2分の1成人式」はさまざまな家庭環境があるのに“正しい家族”という多数派の幻想のもとで、すべての子供に親への感謝の言葉を伝えさせる学校行事だ。イスラム国のテロにより逆に良心的なイスラム信者を差別してはいけないと東京のイスラム寺院で見学者が増えたことは有意義な面がある反面、理解できない人を排除し理解できないことを選ぶ自由がなくなる懸念もあるという。

 正論と言われていることが必ずしも正しいとは限らない。本当に幸せになりたいのなら世間のレールに乗って進んだり上辺の言葉に耳を傾けたりせず、ちょっといい加減にジタバタせずに生きること。誰にも読めない未来に備えて真面目に生きずに、自分がいない遠い未来に責任はないと気軽に考えて生きようとすすめてくれる本書。真面目と言われているあなたにこそ、ちょっと刺激的な本書で損をしない楽しい生き方を習得してほしい。

文=Chika Samon