「ジャポニカ学習帳」の昆虫写真家×大人気の昆虫学者の『わくわく昆虫記』! 憧れの虫たちに出会えるフォトエッセイ

科学

公開日:2016/9/30

『わくわく昆虫記 憧れの虫たち』(丸山宗利:文、山口進:写真/講談社)

 小生は幼い頃、よく草むらに入り込み、バッタやカマキリなんかを追いかけていた。だが、そこには目的外の遭遇もあり、たびたびクサ~いカメムシに出くわすことも。頭の悪い子だった小生は、何度もその悪臭に泣いて帰ったものだ。『わくわく昆虫記 憧れの虫たち』(丸山宗利:文、山口進:写真/講談社)を読んでいると、ふとそんなことを思い出してしまう。本書は昆虫学者・丸山宗利氏による、幼少期から抱いていた昆虫たちへの思いあふれるエッセイと、自然写真家・山口進氏による、虫たちの日常に迫った写真で構成されたフォトエッセイである。

 本書を手に取り最初に目を惹かれるのは、やはりカバー写真だろうか。青空の下に広がる緑の高原。それを見おろすかのような後ろ姿の黒いゴマダラカミキリが1匹。なんとも爽快で印象的な写真である。それを撮影したのが自然写真家である山口進氏。彼こそが「ジャポニカ学習帳」の表紙写真を撮り続けてきたカメラマンである。ちょっと上の年代なら、虫たちの写真が思い浮かぶという人も多いはず。本書では虫たちの大胆なアップ画像は勿論、カバーのような背景とのコントラストを活かした写真や、羽化したばかりの白いアブラゼミなど学習帳のそれとはまたひと味違う写真が盛りだくさん。それらはすべて本書のために撮り下ろしたというのも魅力だ。

 一方、エッセイを担当した昆虫学者の丸山宗利氏。恥ずかしながら小生は氏のことを知らなかったのだが、実は著書も多く、NHKラジオ『夏休み子ども科学電話相談』で相談員も務めている。本書ではチョウやバッタ、カマキリやトンボなど多岐にわたって語られているが、カブトムシに代表される甲虫類も得意で、エッセイは角を持ったコガネムシ「ダイコクコガネ」から始まる。

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 ダイコクコガネと聞いて、ピンと来た方はきっと「虫通」であろう。小生も、かなり虫好きを自認しており気になる虫の一つだが、こいつには未だお目にかかれずにいる。虫に疎い方でも「フンコロガシ」の名を聞いたことがあるはず。そう、ダイコクコガネは動物の糞を餌にしている「糞虫(ふんちゅう)」の仲間だ。糞虫と呼ばれるだけあって、その生息地は糞の周りとなるが、現在は「絶滅危惧種」に指定されるほど数を減らしている。本書によると、主な餌だったウシの糞に残る寄生虫駆除剤の影響だという。

 丸山氏も初めて捕獲したのは大学生時代のことだという。とある島の牧場でウシの糞の脇にその巣を見つけたのだ。よほど興奮したのか氏は、ウシの糞が手に付くことも気にせず巣を掘り返し、成虫のペアと幼虫を捕獲したという。幼虫は親が巣に運び込んだ糞の塊「糞球(ふんきゅう)」の中でそれを餌として育つのだ。

 そんな情熱的一面もある丸山氏だが、エッセイは幼き日を思い返させる抒情感にあふれている。小生自身も昔を思い出しながら、ゆったりと読み進めていると、突然ページから我が幼き日の悪夢が目に飛び込んできた。小生が大嫌いなあのカメムシだ。見るだけでニオイを思い出してしまうのだが、しかしそんなカメムシでさえ山口氏はその羽の美しさを見事に写し出し、丸山氏は親しみ深く振り返っているのだ。その手腕にはただただ敬服するばかりである。

 このように本書は、虫たちへの愛にあふれる1冊だ。昨今の子供たちは虫を見ることすら怖がると聞くし、触れない大人もプライベートでたびたび見ている。「ジャポニカ学習帳」から虫の表紙がなくなったのもそのためだという。だが、まずは大人が本書で虫たちの魅力を再確認してはどうだろうか。このエッセイと写真は、子供の頃に抱いた虫たちへの好奇心を確実に思い出させてくれるだろう。でも、やはりカメムシだけはダメだ……。

文=犬山しんのすけ