ブラッドリー・クーパー主演で映画化決定! アクション界のニューヒーロー候補は過去も愛も葬った男!

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公開日:2016/10/10

『アメリカン・ブラッド』(ベン・サンダース:著、黒原敏行:訳/早川書房)

 トム・クルーズもマット・デイモンもジョージ・クルーニーも、ハリウッド・スターとは「この役がやりたい!」と思えば自分で出資してまでも役を手に入れてしまう人々である。そして、男性スターに大人気の役どころは「孤独なアクション・ヒーロー」、男ウケも女ウケも間違いない鉄板のキャラクターだ。

『世界にひとつのプレイブック』などで知られる演技派、ブラッドリー・クーパーもそんな人気銘柄の映画製作と主演を兼任することが発表された。原作となるのは『アメリカン・ブラッド』(ベン・ サンダース:著、黒原敏行:訳/早川書房)。ニュージーランド出身の新進気鋭作家によるクライム・アクションである。しかしこれが、映画化が待ちきれなくなるほどの重厚な作品なうえに、主人公があまりにも魅力的な作品なので、イケメン俳優の代表格であるクーパーが名乗りを上げたのも多くの読者が納得できるだろう。

 物語はさびれたバーから始まる。突然現れた二人組の強盗に凍りつく店内。しかし、あっという間にカウンターにいた長身のブロンド男が二人組を倒してしまう。去り際、暴行を加えられていた女性の元に歩み寄る。彼女が警察の人間だと見抜いたからだ。

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「これの処置はきみに任せる」

 そう言って強盗から奪った銃を置き、去っていく男、彼の名はマーシャル。あまりにもクールなプロローグに、読者のページをめくる手は止まらなくなるに違いない。

 マーシャルは元潜入捜査官で、今は警察を辞め、サンタフェで静かに暮らしている。しかし、地元の若い女性の失踪を知り、単独で調査を開始する。その先に待ち構えていたのは冷酷な麻薬の売人集団だった。一方、マーシャルの潜入捜査によって打撃を受けた犯罪組織は復讐のために「ダラスの男」と呼ばれる凄腕の殺し屋を差し向ける。

 マーシャル、売人、そして殺し屋。視点を入れ替えながら彼らが徐々に接近していく描写は、手に汗握るほどにスリリングだ。ジャック・リーチャー(アメリカの人気シリーズの主人公。トム・クルーズ主演で映画化もされている)を参考にして造形されたというマーシャルのキャラクターは確かに悪人への容赦のなさ、孤立無援な立ち位置には共通点がある。しかし、異なるのはリーチャーが無慈悲で冷徹な「正義の執行人」であるのに対し、マーシャルは段々と人間臭い部分を露にしていく点である。特に、愛した女性への罪悪感を引きずり、似た女性の失踪事件に関わっていくという展開は、マーシャルの人間味が強みにも弱みにもなる可能性を示唆している。しかし、そんな欠点もまたキャラクターに深みを与えているのだ。

 また、マーシャルがところどころで口にするキザな台詞も印象的な個性になっている。

「おまえには二度会った。三度目は簡単だろうよ」

 このように卑劣な悪党には回りくどく脅しをかける。

 情事の後、「第二ラウンドってものがあるじゃない」とふざける相手に対して

「いまからはじまるよ」

 と言ってのける。早撃ちという得意技と合わせて、まるで西部劇の二枚目ガンマンを見ているようだ。おそらく、海外出身の作者はアメリカデビュー作ということで、かなりアメリカ人受けするヒーロー像を研究したに違いない。迫力の銃撃シーンや格闘戦もまた、ハリウッドを意識して書かれたものと見ていいだろう。その結果として、本作はこれ以上望めないほど理想的な成功を収めたといえる。

 断片的に明かされていくマーシャルの過去と、現在の事件が意外な接点を見せるとき、物語は最高潮を迎える。じわじわと盛り上がっていく小説ならではの興奮がスクリーンでどう再現されるのだろうか。キャストも含め、あれこれ想像しながら映画の完成を待ちわびるのも一興だろう。または、映画よりも早くシリーズ第二作が出版される可能性も大いにありえる。小説と映画を股にかける、新たなアクション・ヒーローの活躍をぜひとも先取りしてほしい。

文=石塚就一