長時間労働、罰金、売り上げノルマ、自爆営業の強要…。若者をむしばむブラックバイトの実態

社会

公開日:2016/10/12

『ブラックバイトに騙されるな!』(大内裕和/集英社クリエイティブ)

 「ブラックバイト」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 人生経験の浅い学生を中心に、なかなかよい仕事に就けない若年層を都合のよい労働者として過酷な労働条件で働かせる企業が存在する。しかも、ブラックバイトで働いている本人の多くはその自覚がないという。そこで、周りの人がブラックバイトから救い出すための手助けができるように『ブラックバイトに騙されるな!』(大内裕和/集英社クリエイティブ)を紹介する。

ある日偶然学生たちの異変に気が付いた

 著者の大内裕和氏は、中京大学国際教養学部の教授だ。しかし、元から学生アルバイトの実態を調査していたわけではない。実は、毎年恒例のゼミ合宿の日程を調整しようとした際、どのように日程を調整しようとしても、必ず誰かがアルバイトを理由に出席できないという状況になった。ゼミ生の人数は15人。「2か月前にはシフトを入れないとだめだから」「1週間前にならなければシフトが決まらないから」「曜日指定でどんなことがあっても休むことができないから」という3人がいてゼミ合宿が中止になったのは2010年ごろのことだ。

 それと同時期に、アルバイトが忙しくて試験勉強ができないという理由で単位を落とす学生が激増した。これらのことが重なって「何かがおかしい」と感じたために実態調査を始めることになったのだ。そして、正社員並みの責任を持たされて、学生としての権利も奪われている実態を知ることになる。彼が講義中にそのようなバイトを「ブラックバイト」と表現し、フェイスブックにも書いたことから「ブラックバイト」という名称が広がった。

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ブラックバイトの定義とは?

 大内氏が名付けたことで、一気に社会へ拡散したブラックバイトという言葉だが、単にブラック企業のアルバイト版ではない。学生生活に支障をきたすという意味でブラックバイトを次のように定義づけした。

学生であることを尊重しないアルバイトのこと。フリーターの増加や非正規雇用労働の基幹労働者化が進む中で登場した。低賃金であるにもかかわらず、正規雇用労働者並みの義務やノルマを課されるなど、学生生活に支障をきたすほどの重労働を強いられることが多い。

 ブラックバイトというと、どうしても労働基準法違反や低賃金であることに目が向きがちだが、大内氏が最も問題としているのは、学生生活とアルバイトの両立を不可能にしている点だ。試験勉強のために休むことが許されなかったアルバイト先を、大内氏はおかしいと指摘したところ、当の学生本人は「自分が休むと仕事が成り立たないから」と擁護した。「正社員は何をしているのか?」と尋ねると、「全員が大学生のアルバイトで正社員はいない」という。全員が同じ時期に試験が重なるため、誰も休めないというわけだったのだ。

 同様の意見は他にも多数あり、中にはアルバイトを休めなくて就職活動の面接に行けず、就職に失敗する学生までいた。ノルマを持たされ、達成できないと自腹を切らされたり、制服として自社製品の買い取りをさせられたりしても、そんな悪条件を当たり前だと思い込まされている学生が多く、悪条件の中で切り盛りできる能力を身に付けることが就職活動で役立つと思っている者も多かった。

 また、条件がおかしいと思ってもやめられないという声も少なくない。「やめようとするのは心が弱いからだ」とマインドコントロールされたり、「やめるなら懲戒免職扱いにする。今後就職できなくなる」と脅されたりする例まであった。ブラックバイトの根は予想以上に深いのだ。

ブラックバイトから抜け出させるために周りの人ができることは?

 ブラックバイトはしている本人に自覚がない場合が多い。だから、周りはまずブラックバイトであることを自覚させてやらなければならない。そのうえで、不当なことは法律の専門家などの力を借りて解決していくことが大事だ。ただし、ブラックバイトを強いるような企業と戦うためにはそれ相応の準備がいる。きちんと証拠集めをしてから、正当な権利を主張するようにしたい。ブラックバイトからの脱却は、社会経験の少ない学生1人では難しい。やはり周りの大人が早く気づき、抜け出させてやる必要があるようだ。

文=大石みずき