「日本代表が強くなった理由」を知れば、わが子が“強い子”になる! ラグビー元日本代表ヘッドコーチからの子供にも大人にも届く夢への“ロングパス”とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

『強くなりたいきみへ! ラグビー元日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズのメッセージ』(エディー・ジョーンズ/講談社)

 2015年のW杯でラグビー日本代表が格上の強国・南アフリカ相手に歴史的勝利をおさめた。長年、弱小国として敗戦にまみれてきた日本代表に染み付いた負け癖を拭い去り、チームに強いメンタリティを与え、奇跡を起こした立役者・元日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズさん。

 『強くなりたいきみへ! ラグビー元日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズのメッセージ』(エディー・ジョーンズ/講談社)は、そんなエディーさんの人生とラグビー日本代表での取り組みを通して、「どうやったら”なりたい自分”になれるのか」「自分で考えて自分で行動できる人になるための方法」を教えてくれる一冊だ。

 少年少女向けに書き下ろされた児童書だが、エディーさんがラグビー日本代表を変えた過程から感じるのは「人を育てるまなざし」。大人が学ぶことも多い。

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 「強くなりたいきみ」に、「強い子、強い人を育てたいあなた」に、エディーさんの教えを紹介したい。

ラグビー日本代表の奇跡

 エディーさんは、負け癖の付いていたラグビー日本代表を根底から変えた。最初の合宿から、選手を徹底管理し、朝6時から始まる濃密な練習スケジュールを組んだ。
 ところが、“世界一厳しい練習”を課しながら「細かい説明はしなかった」という。選手は反発し、疑問を抱いたが、それこそがエディーさんの狙いだった。

わたしはあえて、選手たちを極限まで追い込みました。試合でどんな状況になっても、自分たちで考えてほしいからです。

 「どうしたら勝てますか?」と尋ねられたとき、エディーさんは「あなたはどうやったら勝てると思いますか? 本気で考えていますか?」と問い返す。そして、本人に答えさせるという。

自分で発言すると、その発言どおりに実行しなければと思って、積極的に練習に取り組むようになるんですよ。

 フリーキックの名手・五郎丸選手がスランプに陥った時も、リーチ マイケル選手に新キャプテンを任せた時も、控え選手となりキャプテンを外れた廣瀬選手がチームを支える決断に至ったのも、エディーさんが「自分で考える」よう求めた結果だ。

 成果は南アフリカ戦で奇跡となって現れる。後半38分に日本がペナルティキックを得た場面。得点は29対32と日本が負けている。エディーさんは「ペナルティゴール(3点)を狙え」と、引き分けを指示した。しかし、選手たちはトライ(5点)による勝利を目指し、スクラムからプレーを続行した。結果は知っての通り、日本のトライで逆転勝利。自分で考えること――それが強くなるための第一歩だ。

父の言葉「GO! ゆっくり」と親子の距離感

 少年時代からラグビーに没頭していたエディーさんだったが、ラグビー選手としては小柄だった。それでも「小さな身体でも勝つ方法があるはずだ」と、自分の長所を考えた。「冷静に試合を分析する」と周囲に言われていたエディーさんは、「フッカー」という司令塔ポジションが自分に適していることに気づき、活躍した。

 その背景には、父親の「GO! ゆっくり」という日本語と英語混じりのアドバイスがあった。「あせってはいけないよ。やりことがたくさんあるときは、一気にやろうと思わないで。まず、なにをすべきなのかを一度整理してから進めなさい」という意味だ。

 ラグビーに限らず、混乱して次にすべきことがわからなくなることがある。しかし、次にやることは「一つ」。焦っているときほど冷静に「次の一手」を見きわめれば、光は見えてくると、エディーさんは言う。

 そして、エディーさんの父は、いつも試合を見てくれていた。試合中は静かに見守り、勝っても負けても、ほめすぎず、けなすこともなく、「よくやった」と一言だけ。そんな父親の言葉がうれしかったのは「自分がベストをつくしていることを、わかってくれている」とエディーさんは感じていたからだ。だから、父親のアドバイスを素直に聞くことができたという。親子の愛情と距離感を見習いたい。

叶わない夢、それでも人生はつづく

 現役時代のエディーさんは、教師の仕事の傍らクラブチームに所属してプレーを続け、オーストラリア代表を目指していた。29歳のときにようやく「スタンバイ・メンバー(補欠選手)」に選ばれたが、ついぞ招集の電話は鳴らなかった。5歳の頃から、誰にも負けない努力を続けてきたラグビーだったが、それでも代表にはなれなかった。

オーストラリア代表に入るためにがんばったけれど、入れなかった。けっきょく、わたしの力不足だったんだ。でも、やれることはすべてやりつくしたから、後悔はない。そして、自分にできることを探せばいい!

 教師の仕事のなかで「人の能力を引き伸ばすのは面白い」と感じていたエディーさんは、コーチとしてラグビーを続ける選択肢を見つけた。そして、コーチとしての才能が開花した。「うまくいかないときこそ、新しいステージに進んでいる」とエディーさんは前を向く。

大事なことは、自分の才能は必ずなにかに活かせると信じることです。そして一生懸命、なにかに取り組むからこそ、自分を信じる力がわいてくるのです。

 エディーさんは断言する。「ベストを尽くせば、だれでも必ず“強く”なれる」と。そのメッセージをどう受け取るのか、次に自分が打つべき一手は何なのか、それを考えるのも、決断するのも……本書を読むかどうか決めるのも「きみ自身」だ。

文=水陶マコト