「会いたくて震える」のは哲学だった!? Jポップから考える生きるヒント

エンタメ

2016/10/27

『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』(戸谷洋志/講談社)

「未来(あす)を信じて」
「この瞬間(とき)を忘れない」

 独特なフレーズや当て字で、しばしばネタにされがちなJポップの歌詞。特に、耳の肥えた音楽ファンほど「Jポップ」という響きに蔑称めいたものを感じてしまうのではないだろうか。しかし、興味のない人でさえも「西野カナみたいに震える」といった風に、日常会話でフレーズが飛び出してしまうこともあるのだから、やはりJポップの浸透力はCD不況の時代においてもなお、健在と言わざるをえないだろう。

Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』(戸谷洋志/講談社)は、そんなJポップに分類される15のヒット曲の歌詞から、人生を深く考えるための哲学を読み取ろうと試みた一冊である。難解と敬遠されやすい哲学書の大半と違い、Jポップという入り口から発展していく思索の流れはスラスラと読者の脳に入ってくるだろう。そして、Jポップで歌われていた内容の意外な重さに驚かされるはずだ。

 本書で取り上げられる楽曲は宇多田ヒカル、aikoなどのソロアーティストから、ONE OK ROCK、BUMP OF CHICKENなどのバンド、乃木坂46、嵐などのアイドル、Mr.Childrenのような大御所にいたるまで様々である。「自分」「恋愛」などの章ごとに、まずはそれぞれのテーマに該当するアーティストの歌詞を紹介し、「先生」と「麻衣」という二人の登場人物の対話形式で分析がなされていく。それにしても、なぜJポップの歌詞が選ばれたのか?

「先生」によれば、それはJポップが「言葉に重きを置く音楽である」からだ。Jポップの歌詞はストレートなものが多いが、それゆえに物事の本質を突く。そして、本書もJポップのストレートさを引き継ぎ、平易な言葉で深く際限のない哲学の世界をシンプルに解説してくれる。例えば、西野カナ「会いたくて会いたくて」ではこんな風に恋愛論が展開される。「会いたくて震える」というあまりにも有名なサビのフレーズについて、「失恋が曲の主人公である『私』の生命を脅かしている」と説明する「麻衣」に対し、「先生」が質問する場面だ。

先生 しかし、不思議ではありませんか?
麻衣 えっと……何が不思議なんでしょう?
先生 だって、たとえ失恋したとしてもそれが「私」の生命を脅かすことにはなりません。(中略)確かに失恋をすることで恋人同士は別々の人生を歩むことになる。けれども人間はそもそも一人で生きているのだから、失恋はむしろ人間を本来の自然の状態にするものだ。

 何度も問答を繰り返すうちに、「会いたくて会いたくて」と、哲学者メルロ=ポンティが言うところの「癒合性」との合致が明らかになっていく。そして、二人は結論する。

恋愛のような特殊な状況において、自分と恋人とが分離不可能であるように感じられても、決して不可能なことではないのです。

 また、AIの「Story」についての項も興味深い。「言葉にならない」「一人じゃない」など、Jポップではありがちなフレーズを持つこの曲が、しかしどうして多くの人の心に届いたのだろうか。哲学者フーバーの言葉を引用しながら、「先生」は哲学的に「言葉にならない想い」の正当性と、「一人じゃない」という言葉が示す他者との関係性を説明する。よく使われるというだけで、その言葉が陳腐な意味になるとは限らない。むしろ、特別な感情があるときほど「言葉にならない」としか言いようがなくなってしまうことが哲学的に証明される。

 漫才のような掛け合いを通して、Jポップに込められた真理が浮かび上がっていく過程は読み応え十分だ。もちろん、Jポップはストレートな歌詞ばかりではない。映画『君の名は。』のヒットで注目度を上げているRADWIMPSや、小栗旬主演映画『ミュージアム』の主題歌を務めるONE OK ROCKなどの難解な歌詞も取り上げて解読していく。アーティストのファンはもちろん、そうでない人も哲学に触れるきっかけとしてぴったりといえるのではないだろうか。

文=石塚就一