学生・教員・大学経営者―すべてが「Fランク化」しつつある大学。よい大学を見分けるためには?

社会

更新日:2016/11/15

『Fランク化する大学』(音 真司/小学館)

 大学全入時代になり、大学間の学生争奪戦が激化しているといわれる。人気がある大学には質の高い学生が集まり、そうではない大学の授業では日常的に私語が飛び交うとか。このような大学の中でも、底辺と見られる大学は「Fランク大学(Fラン)」と揶揄されることも。

 すでに耳に馴染んだ感がある「Fランク」。『Fランク化する大学』(音 真司/小学館)によると、「Fランク」という言葉の誕生は2000年。ある大手の予備校が大学入試ランキング表で「Fランク」という枠を設定したことによるらしい。入試の難易度に応じて、大学をAランク、Bランク、Cランクとしていき、受験すれば誰でも合格する大学をフリー(ボーダーフリー=受ければ誰もが合格する)の意味を込めて「Fランク」と定めたそうだ。

 そして、本書は今の少子化・大学全入が大学の機能劣化を起こしており、いわゆる「底辺」だけではなく、有名大学も含めた多くの大学で「Fランク化」現象が発生している、と警鐘を鳴らしている。大学の「Fランク化」現象を引き起こしている犯人は、劣化した学生だけでない。劣化した教員、劣化した大学経営陣も含まれる。

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 本書が挙げている「Fランク化」現象の一つが、授業中に飛び交うひどい私語。本書はこのような授業を見て「教室全体が談話室のような状態」と表現している。本書によると、かつての大学では教員が咳払いでもすれば、私語は静まっていた。非常勤講師として3つの大学で授業を受け持っていた著者は、講義を運営するうえでの注意書きである「教務関係の手引書」に目を通したときに、私語問題の原因を理解したという。

 もちろん、学生の質の低下も原因の一つではある。不人気な大学が定員割れを回避するためにとるPR展開によって、「現在、日本の最高学府である大学には、本来であれば来てはいけないレベルの人間も、何の苦労もなく紛れ込んでいる」と辛辣だ。しかし、大学側にも原因があるようだ。前述の「手引書」に書かれていたのは、次のような内容。

「毎回の授業で必ず出席を取ること」
「出欠の名簿を学期末に事務室に提出すること」
「全体の3分の1を欠席した者は学期末の試験を受けさせないこと」…。

 当たり前のことのようだが、本書によると、このルールこそが私語を助長している。「その科目に何の興味もない者まで教室に集まってしまう」からだ。興味がない話だから、私語に明け暮れる。かつての大学は、毎回出席を取ることはなかったし、熱心に講義を聴きにくるのは科目に関心がある学生だけだったという。大学は、文部科学省の指導にしたがって、とにかく管理を厳しくすることで、学生が毎日大学に通い、単位を修得して就職を決め、無事に卒業すると思っていることに、本書は疑問を投げかけている。

 そして、さらに本書は、私語をしたくなるような退屈な授業が増えていることも見逃せない、と指摘する。日本政府は1955年 に、博士号取得者を増やし、社会で活用することを目指してきた。このような背景から、日本の大学院は、1年間に1万5000人以上のも博士号取得者を輩出している。ところが、大量に発生した博士号取得者は、自分たち全員を受け入れてくれる仕事が世に溢れているわけではなく、大学の専任教員のポジションにも限りがあるため、非常勤講師の職に群がる。本書は、非正規雇用である非常勤講師の薄給を明かしている。仮に月から土の週6日間、1日で3コマ4時間半もの講義をして(授業の準備、移動時間は別)、週18コマ。これは尋常ではない過密スケジュールなのだが、それでも年収はおおよそ650万円。正規職員である准教授の相場である700万円にも届かない。ちなみに教授は1000万円以上が相場。そして、非常勤講師は専任教員のように出世はない。このような苦しい立場の非常勤講師が、例えば図書館にあるDVDを観せて感想を学生に書かせるだけで終わる、といった手抜き講義を繰り返し、学生の学ぶ意欲を失わせているというのだ。そして、大学経営陣は、苦しい経営を理由に、非常勤講師に多くのコマを受け持たせる。

 本書は、「Fランク化」する大学をこれ以上増やさないために、増えすぎた大学の中でも質の低い大学や、受験生集めばかりに走る大学を、市場の原理にかけて淘汰するしかないと述べている。そのためには、大学でどんなことが起こっていて、その原因は何なのかを広く知ってもらいたいと願っている。

文=ルートつつみ