税金が高くても、将来に不安があっても、世界一幸せ!? 北欧の幸福度の高さの秘密とは?

社会

更新日:2016/10/28

『限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?』(マイケル・ブース:著、黒田眞知:訳/KADOKAWA)

 少し前から、インテリアや人々の暮らしなどが日本でも話題となっている北欧。独特のセンスで飾られた部屋や、シンプルな暮らしについての書籍も多く、北欧の家具を扱う店舗も増えている。福祉の手厚さも、時折テレビ番組などで報じられている。

 では、北欧の暮らしが世界一幸せであるということはご存じだろうか? そもそも、「世界一幸せ」とは、どういうことなのだろう? そんな疑問を抱いた方には、『限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?』(マイケル・ブース:著、黒田眞知:訳/KADOKAWA)をオススメしたい。

 ブース氏は、『英国一家、日本を食べる』(寺西のぶ子:訳/亜紀書房)などの著書を持つジャーナリスト。北欧諸国のひとつであるデンマークで暮らすブース氏が、実際の生活で経験したことや公のデータ、数々の取材から得たコメントを紹介しながら、世界一幸せである北欧の暮らしの秘密に、様々な角度から斬り込んでいく。

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 本書では、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンの各国について、幸せの秘密をひもといており、非常に読み応えのある一冊となっている。中でも、ブース氏の経験談も豊富に盛り込まれているデンマークに注目する。

 2012年、国連が初めて行った「世界幸福度レポート」で1位となったデンマーク。別の調査では、82パーセントの人が「人生がうまく行っている」と回答し、「人生がつらい」と答えたのはわずか1パーセントだったそう。この結果の背後には、何があるのだろうか?

短い労働時間

 ある新聞が行った調査では、デンマーク人が幸せを感じる時は、1位が友人といる時、次いで家族といる時という結果が出た。これを支えているのが、労働時間の短さのようだ。著者によれば、EU諸国の年間平均労働時間が1749時間であるのに対し、デンマークは1559時間。デンマークで「仕事が生きがい」という人に会うことは、ほとんどないそうだ。さらに、お酒に対して放任主義的で、あらゆるスーパーや雑貨店でアルコールが販売されているとか。プライベートの時間を確保して友人とお酒を飲みながら楽しい時間を過ごす、そんな暮らしが見えてくる。

高レベルの信頼関係

 2011年に実施されたOECDの調査では、デンマークは88.8パーセントが他人に高い信頼を置いていると答えた(ちなみに、日本は約61パーセント)。さらに、96パーセントが「必要が生じた時に頼れる人がいる」と回答。デンマークは過去50年の間、信頼度が常に上昇し続けた数少ない国のひとつだそうだ。本書では、この信頼度の高さが、ビジネスや教育に寄与していると分析。その結果、医薬やエレクトロニクスなどの高度産業に優れていると述べている。

高額な税金で福祉の充実

 世界一幸せな国は、税金の高さも世界トップレベル。本書によれば、所得税は42~56パーセントにもなり、商品の店頭価格は、ヨーロッパの平均よりも42パーセント程度高い。直接税と間接税を足すと、58~72パーセントの負担となるとのこと。ただ、高い税金の一方で、充実した福祉サービスなどが実現されているため、国民の不満はそれほどではなく、むしろ高額な税金を支払っていることに誇りを感じているという側面もあるようだ。

 人々の幸福度が高いからといって、問題がないわけではない。健康に関しては、がんの罹患率の高さや平均寿命の短さなど、他の国に劣る部分もある。さらに、デンマークでも格差は広がっていて、これが教育や医療にも影響を及ぼし始めているという。

 つまり、我々と同じような問題を抱えながらも、デンマークの人々は幸福を感じているのだ。それはなぜか。ブース氏は本書の最後で、幸福の鍵は「人生を主体的に生きられるかどうか」であると結論づけている。とある調査でも「自分の人生を変えたくても変えられない」と答えたデンマーク人は、わずか5パーセント。高い税金を支払っても、将来への不安があっても、自分で選んだ人生を生きることで、人は幸せを感じられるのかもしれない。

 もちろん、デンマークだけではなく、北欧の他の国についても、幸福のヒントがたくさん隠されている。今より幸せを感じたいすべての方にオススメしたい一冊だ。

文=松澤友子