高校生の男女がSMを通じて惹かれあう。はてしなくエロいのに、底抜けにピュアな『ナナとカオル』完結!

マンガ

公開日:2016/10/28

『ナナとカオル』(甘詰留太/白泉社)

 本当のSMを理解している人が、果たして何人いるだろう。Sは支配する者、Mは痛みを悦ぶ者、なんて安易な思い込みをしていないだろうか? 実はSこそ支配される側で、誰よりも愛情深い存在なのではないか――そんなことを感じさせてくれるマンガ『ナナとカオル』(甘詰留太/白泉社)。はてしなくエロいのに、底抜けにピュアなラブコメシリーズ。最終18巻がついに発売された。

 主人公は高校2年生の杉村薫(カオル)。陰で「キモムラ」とあだ名される、チビで冴えない少年だ。対して、マンションの隣に住む幼なじみ・千草奈々(ナナ)は、成績優秀、スタイルもよくて美人という完全無欠の生徒会長。彼女への好意をひたかくし、日々、趣味のSM妄想にふけっていたカオルの前に、ある日、ボンデージ姿のナナが現れる。そこから2人の誰にも言えない“息抜き”が始まった……。

 というのが本作のあらすじだが、正直、これだけでは、自分とは関係のない作品だと感じる女性は多いかもしれない。だが違う。本作は、心と心を通わせ合う純愛を信じる読者ならば男女問わず読んでほしい作品だ。

 たしかにSM描写はエロい。首輪をはめ、緊縛し、ノーパンで外を歩かせる。限界まで尿意を我慢させたり、犬になりきって一日を過ごさせることもある。極限を越え、節度を捨て、剝き出しの情動に身を委ねるナナは、一見するとカオルにいいように扱われているように見える。だがカオルは決して、ナナを危険にさらすような真似はしない。ナナが心の底から嫌がるようなこともしない。ナナを傷つけないように使う道具は何時間も何日もかけて手入れするし、外でプレイに興じる時は、誰にも見つからないよう、ナナの社会的立場が傷つかないよう、徹底的にリサーチする。なぜならカオルがナナとSMをするのは、彼女の“本当の”美しさを引き出すためだから。優等生の仮面をかぶり、誰にも弱音を吐くことができず、ひとり張り詰め続けている彼女から緊張感をとりのぞき、甘美な快楽に誘うのがご主人様であるカオルの役割なのだ。もちろん、羞恥の壁を越えて日常では信じがたい行為もする。だが、リミッターを外して自分の欲望と想いに忠実になったナナは、ますます美しさを増していく。彼女にとってSMは、自分を解放できる唯一の“息抜き”の場になっていくのだ。

 一方で、ナナのことが好きすぎるカオルは「自分などが隣にいてはいけない。そんな不釣り合いは他でもない自分自身が許せない」と卑屈な恋慕を募らせていく。そんなカオルに、ナナもいまいち踏み込み切ることができず、不安定な関係に焦れていく。互いに大好きで、そばにいたくて、心は通じ合っているはずなのに、2人は絶妙にすれ違い続けていくのだ。

 けれど、だからこそ2人は、SM行為を重ねるのだろう。互いの気持ちを、簡単には言葉に表せないから。確かめ合うようにSMに興じる2人は、ほとんど直接的に触れ合うことがないのに、セックスするよりも濃く深く信頼と絆を深めていく。その関係がラスト、どこにたどりつくのか。必読の最終巻をぜひ手に取ってほしい。なお、90年代のオタクを主人公に描いた『いちきゅーきゅーぺけ』(白泉社)も全3巻で完結。こちらもあわせて楽しみたい。

文=立花もも