Googleが採用面接で「あなたの長所は何ですか?」と質問しないワケ

業界・企業

2016/11/2


『統計学が最強の学問である[ビジネス編]』(西内 啓/ダイヤモンド社)

 この勉強が何の役に立つのか? 学校でそう思った教科は誰しもあるだろう。まだ世間を知らない学生の目では、教科書から社会との接点は見えない。統計学などはその最たるものだろうか。だが現在はビッグデータと騒がしいように、なんでもかんでもデータの時代だ。そしてデータは集めただけでは何の役にもたたない。それを解析して何らかの答えを導き出すのが肝心なのだが、それには統計学の考えが不可欠になってくる。

統計学が最強の学問である[ビジネス編]』(西内 啓/ダイヤモンド社)は、ビジネス編と銘打つだけあって、実際のビジネスの現場でデータをどのように解析したらよいのか、という統計学の実践編のような手引書である。会社や職場での意思決定は経験と勘が頼りという場合が多いと思うが、これを統計学的に解析し、新たな知見を得ようという試みだ。

 例えば、人事に統計分析を入れるとどうなるだろう? ?例としてリーダーについて考えてみる。

 いいリーダーとそうでもないリーダーの違いはどこにあるか、という研究が1940年代頃から行われている。これらの結果、ビッグファイブと呼ばれる5つの軸での性格特性の見方が確立した。ビッグファイブには、外向性、調和性、誠実性、感情の安定性、経験への開放性の5つが含まれる。

 これでいいリーダーの特徴が完全に明らかになったかといえば、そうではない。この結果、「どのような状況ではどのようなリーダーが機能するのか」という、状況とリーダーシップの相性問題に大きな関心が寄せられるようになった。

 例えば、新規事業開発のような何をどこから手をつけていいのかわからないような現場があるとする。このような場合、指示型リーダー(やるべきタスクとスケジュールを整理し達成方法を具体的に指示)が望まれるが、ここに参加型リーダー(部下に相談し彼らの提案を活用して意思決定)タイプがあてがわれたとしたらどうだろう。その人がいかに優れていても、物事が進まず部下の満足度は低くなる、という具合だ。

 要するに、従業員の価値は能力が「優秀か否か」というところだけで決まるのではなく、「状況とその人の特性の相性問題」と捉えるべきなのである。

 そのポジションと相性のいい 特性や能力は何であるか、これを統計学的に解析し明らかにすることができれば、採用試験や社内評価・人事にフィードバックし、業績アップにつなげることができる。

 分析のやり方は次のような流れである。

 まずは分析対象の設定を行う。数十人いれば分析はできるが、まったく異なる職種の人を一緒くたに分析してはいけない。

 次に分析する要因、統計学的には「変数」というものを決めていく。例えば先ほどのビッグファイブのような性格特性、IQのような認知能力、特定の専門分野における知識、経験など、要因として考えうるものを広く挙げていく。

 ここまでできたら、いよいよ実際のデータを収集する。分析対象者に対するアンケート、入社時に提出された履歴書やエントリーシートのデータ、性格テストなど、測定したい項目に合わせて調査する。

 データがそろったら分析に入る。このような例でよく使われるのが重回帰分析だ。これは、ある数量に対して、どのような要因がどれほど影響しているか、複数の要因と数量との関連性を一気に分析できる手法である。

 この結果、例えば「感情の安定性」と「新聞図書費」はAというポジションの優秀さに影響するが、「性別」と「半休取得回数」は影響しない、などの結果を読み取ることができる。もちろん、分析対象が変われば結果は変わる。

 かのGoogleは、採用試験の面接で「あなたの長所は何ですか?」といったどうでもいい質問はしない。なぜなら実際のデータをもとに「どうすればもっと優秀な人材を、少ない手間で採用することができるのか」というトライアンドエラーを常に繰り返し、科学的なエビデンスに基づく採用プロセスが確立しているからだ。

 本書は人事のほか経営戦略、マーケティング、オペレーション、それぞれのための統計学がまとめられている。数式や統計手法の説明ではなく、どのように課題を考え、またその課題に対してどのような調査や分析を行うべきか、という点でのアプローチである。これをリサーチデザインというが、この考え自体がまだ日本に浸透していない。ゆえに分析結果を待たずとも、このようなアプローチ方法を知るだけでも新たな知見が得られることと思う。

文=高橋輝実