WAONインフラを利用した香川県高松市の「めぐりんマイル」に学ぶ、成功する「地域通貨」の仕組みとは?

社会

公開日:2016/11/2


『地域通貨で実現する地方創生』(納村哲二/幻冬舎)

 国土交通省と総務省の発表によると、2015年4月までの5年間で全国99市町村の190集落が消滅していることが分かったそうだ。なんとなく「日本経済がヤバい」とか「少子高齢化の歯止めがきかない」とか理解していたが、数字にしてみると衝撃的である。私はいくつかの地方に住んだ経験があり、地方の寂れゆく感じは嫌でも分かっている。地方が消えていくということは、私が住んだ街の思い出も消えていくということだ。こんなに悲しいことはない。もっと頑張ってほしい。なんとか生き残ってほしい。『地域通貨で実現する地方創生』(納村哲二/幻冬舎)には、そのヒントが書かれていた。

地域通貨を導入することで地方創生が実現する

 本書は、地域通貨を地方に導入することで地方創生が実現するということを訴えている。そもそもなぜ地方が寂れていくのかというと、人とお金の流出である。人口流出が起こると、地方でお金を生み出す術がなくなる。そして、地方のお金が大都市に流れると、地方で回るお金が少なくなるので、その地域で暮らす人たちが苦しむことになる。

 そこで「お金が、その地域内で、目的通りに、予定期間内で確実に利用される仕組み」が必要になってくる。それを実現するのが、地域通貨というわけだ。本書では、地域通貨の可能性、実現方法、すでに実現し、ある程度成果を収めている地方の具体例などを説明し、地方創生を実現するために地域通貨がいかに大切か訴えている。かなり密度が濃く、専門的でもあるので、今回は本書のさわりを少しだけ紹介したい。

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成功する地域通貨の仕組み

 地域通貨ってそもそもなんだ? と思う読者もいるだろう。早い話が、商店街で配られる、商店街だけで使える商品券みたいなものである。その規模がもっと大きくなり、読者が住む街全体で使えるものが地域通貨だ。そう言われると、地域通貨も悪くないなと思うはず。ところがこの地域通貨も、本物のお金である「円」と同じように働いたり特別なことをしたりしないともらえない仕組みになると機能しなくなる。

 そこで本書では「いいこと」をすることによって、地域通貨がもらえる仕組みを作ればいいと提案している。「いいこと」とは、ボランティア活動、地域イベントに参加、体育館を利用、健康診断を受診するなどのことだ。ボランティア活動をすると、活動団体からお礼で少額のお金をもらえることがある。それを地域通貨で渡したとしよう。ボランティア活動で得られるのが「円」なら、もしかしたら大都市での購買に使われるかもしれないが、地域通貨で渡すことによって、確実に地域のお店に流れる。その購買活動が、次の購買活動を生み、地域のお金の流れができ始める。地域イベントも同様の発想だ。

 また、医療費を抑えたいと思う自治体は、体育館や健診の活用機会を地域通貨で促すことによって、効果を得ることもできる。この程度の「いいこと」であれば、高齢者や子どもも実践できるし、働けない主婦も得やすい。「円」より手に入れやすいというハードルの低さも重要だ。これらはほんの一例に過ぎない。詳しくは本書で確認してほしい。

自治体と民間、商店街と大手企業の協力も不可欠

 地域通貨は「地域内のどこでも簡単に使える」という便利さも重要になってくる。つまり、自治体と民間の協力なしに成功はない。さらに、地域通貨を紙幣で発行すると管理がややこしくなるので、ICカードを駆使するのが一番いいのだが、導入コストがバカにならない。

 本書では、成功した地方の具体例として、香川県高松市の「めぐりんマイル」を挙げている。この「めぐりんマイル」はイオングループのWAONカード(つまりWAONインフラ)を利用している。地域通貨のためにわざわざ特別なICカードを発行すると、そのICカードを常に持ち歩いてもらわなければ使ってもらえない。その点、「めぐりんマイル」は、上記と同様に「いいこと」をするだけで簡単に手に入り、WAONインフラを利用しているので、多くの人の財布に入っており、使うハードルも低い。定着しやすいのだ。自治体と民間だけでなく、商店街と大手企業の協力も不可欠である。この発想を「煙突モデル」というのだが、そろそろ読者も説明に飽きてくる頃と思われるので、気になった方は本書で確認してほしい。

 私は地方創生が実現してほしいと切に願っているので、これだけ長々と書いてしまった。本書に対して失礼ではあるが、超絶簡単にまとめると、お金(円)レベルで使い勝手の良い地域通貨を発行し、お金より簡単に手に入る仕組みを作ればいいようだ。もちろんそれが難しいから、たとえ 実現しても必ずしも成功につながらないから、地方創生に取り組む方々はみんな泣いているのである。地方創生に取り組む方々は、ぜひ本書を手にとり、なんとか成功してほしいと願う。こうしている間にも、地方は寂れ、そこに住んだ人々の想いや思い出は、徐々に色あせて消えていく。

文=いのうえゆきひろ