セックス、浮気、LGBT、妊娠…養護教諭が明かす、子ども+おとな=「ことな」たちのリアルな悩み

暮らし

公開日:2016/11/4

『保健室の恋バナ+α』(金子由美子/岩波書店)

「大人の階段昇る 君はまだシンデレラさ」という歌詞を耳にすると甘酸っぱい想いや懐かしさを感じる人も少なくないのではなかろうか。卒業ソングや合唱コンクール曲としていまだ親しまれている『想い出がいっぱい』で歌われる子どもから大人への成長期、それがまさに思春期だ。

 箸が転んでもおかしい年頃と言われるほど何もかもが楽しい時期であり、体と心の変化からさまざまな悩みに思い惑わされ苦しむ時期でもある思春期。大人になってから思い起こすとくだらないなぁと思うような小さなことに一喜一憂したり、子どもながらに重い悩みを抱えて過ごしたり、人それぞれさまざまな思春期があるだろう。

 そんな人生の特別な時期を過ごす子どもたちの恋の悩みをちょっと覗いてみたくはないか。『保健室の恋バナ+α』(金子由美子/岩波書店)は公立中学校で養護教諭として多くの子どもたちと接してきた著者が実際に出合ったさまざまな恋の悩みやエピソードを紹介している本だ。

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 性教育を行う中学校でも恋愛学や失恋学なんていう授業はない。小学生の時から“元カノ”“元カレ”なんていう言葉を使い、男女の教職員が話している姿を見て“不倫”とはやし立てる。好きな人と目が合っただけでドキドキする、エッチを想像する自分に嫌悪を覚えるなんて言っていたと思ったら、彼氏や彼女の浮気に悩み、心も体も未熟でありながら妊娠してしまったりするケースもある。子どもと大人が混じったこの時期を著者は「ことな」と呼ぶ。

 夏休みのある日、友人の五月と一緒に彼氏の大輝の家に遊びに行ったしおり。大輝としおりがいちゃついていることに退屈して大輝のベッドで寝てしまった五月をよそに、ピアノの時間になったからとちょっとの間部屋を抜けたしおりは自分がいない間に五月と大輝がキスをしていたことを携帯の写真で知る。怒ったしおりが2人のキス写真を添付したメールを他の友人に送ると、それがネットで炎上し大輝は学校に行けなくなってしまう。介入しようとする母親から離し大輝に性的欲求をコントロールすること、たとえ許されなくても傷つけた人にはしっかりと謝罪することの大切さをゆっくりと説く著者。その後の3人は如何に?

 卓球部でペアを組んだことをきっかけに大親友となった園絵と美優。美優の父子家庭での生活を不憫に思った園絵の両親が夕食などにも度々招待していたこともあり、通学も部活もすべてを共にし、洋服や持ち物まで真似し合い、さらには遊びに来た時にはお風呂もベッドも一緒というほどの仲になる。ある時、母親が娘の日記の中の「死ぬほど好き」という文と2人でキスをしているプリクラを目にする。相談例が増えている同性愛や性同一性障害などのセクシュアルマイノリティについて学び、多様なセクシュアリティの方々や卒業生と多くの交流を重ねている経験から著者は相談してきた母親にアドバイスを送る。果たしてその後の園絵と美優の関係は?

 セーターの袖口を引っ張り、人差し指・中指・薬指だけを出すことで手を細く華奢に見せる“萌え袖”や“三種の神器”と呼ぶヘアカラー・ピアス・カラコンなどオシャレに対して強い興味を持つ中学生たちは自分たちが校則違反となっているカラコンやピアスを若い女性教諭がしていることを見破る鋭さをも持つ。

 養護教諭として一歩引いた立場で学校を見守る著者は、平等に見ているつもりでも教師たちはつい子どもの人格や成績で差別的に評価してしまうこともあると語る。たとえば生徒会役員同士の交際に対しては「お互いにライバルとしていいお付き合いを」と励ますのに、生徒指導面で問題を起こす生徒に対しては「勉強もできないくせに色気は一人前」とか「学生の本分は勉強なんだから」と言ってしまう。しかし普段真面目に学生生活を送る子どもが必ずしもプラトニックな恋愛をするとは限らず、怒られ慣れていない分、妊娠などの問題にぶち当たったときに人に相談することができずに取り返しのつかないトラブルになるケースもあるという。

 本書では、著者が専門家として生徒たちに送ってきた「ココロとカラダ」のアドバイスと共に今普通に学生生活を送りさまざまな悩みと闘う子どもたちの素の姿が紹介されている。思春期真っ盛りの子にはその悩みの抜け口を、子どもを持つ人には子どもたちの悩みの実態を、思春期をとっくに過ぎたという世代の人たちには懐かしい青春時代の思い出を本書でぜひ知り感じていただきたい。

文=Chika Samon