なにこの世界観、クセになる――。「驚き」と「笑い」に溢れた画期的ギャグ漫画『まかろにスイッチ』

マンガ

公開日:2016/11/10

『まかろにスイッチ』(川田大智/KADOKAWA)

 ギャグ漫画の面白さを文章で伝えるのはとても難しい……。だけど、この魅力をどうしても伝えたいと、今日は思い切って「ギャグの説明」という大いなる挑戦(おおげさ)をしてみたいと思う。

まかろにスイッチ』(川田大智/KADOKAWA)は、今注目の才能、川田大智先生の初単行本だ。37編のショートギャグ漫画が収録されており、登場人物が異なる短編が一冊に収められていることや、短編ながらもキャラクターが同じで、シリーズ化しているお話もあるところは、アニメ化もした大人気マンガ『ギャグマンガ日和』(増田こうすけ/集英社)をイメージしてもらうと近いかもしれない。

 だが、大きく異なっているのは、「セリフの量」だろう。『ギャグマンガ日和』は比較的セリフが多く、言葉選びの巧みさや、たたみかけるようなボケやツッコミで笑いを取っているが、本作はセリフが限りなく乏しい。

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 むしろ、セリフが一切なく、キャラの表情や絵だけで笑いを取っている短編すら存在する。その点、『ギャグマンガ日和』よりもシュールで洗練された笑いを感じる。大爆笑というより、「クスッ」と笑ってしまうお話が多いとも言えるだろう。この巧みなコマ空間の使い方や、「言葉で説明せず、絵で語る」手法のうまさは、作者が美大出身だと分かる「あとがき」を読み、その影響もあるのではないかと感じた。

 さて、専門家然とギャグ漫画について語ってみたが、一番大事な「内容」について紹介をして、記事を締めくくりたいと思う。

 本作の人気シリーズは、なんと言っても「メガ澤」シリーズ。

(おそらく)高校生の「そこそこモテてる」中西くんは、同じクラスの女子、メガ澤のことが気になって仕方がない。なぜならメガ澤は、普段『ゴルゴ13』のようなメガネとゴツさを合わせ持つクラスでも一番のブスなのに、メガネを外すとなぜか骨格まで変わり、究極の美女になるからだ。それを目撃して以来、中西はメガ澤の「変身の瞬間」をもう一度見たいと苦戦するが、中々メガネを取った美女メガ澤に会えない。男子高校生の「クラスのアイツ、なんか気になる」という思春期らしい心情を原動力にした「青春ギャグ」と、有り得ない大変身を遂げる女子という奇抜な設定がベストマッチした作品である。

「メガ澤」シリーズ以外にも、思春期男子の心情をうまく利用したギャグネタは、いくつか収録されている。「ホクロ」は、前の席に座る女子のうなじに、「イヤホンの差し込み口のような穴」を見つけた一人の男子生徒お話。衝動を抑えきれず、ドキドキしながらもその穴にイヤホンプラグを差し込もうとするが、理性が働いて押しとどまる。だが、その女子から「いくじなし」と言われてしまう。ポカンとしつつも、赤面する男子生徒。たった4ページの短いお話で、「爆笑」というギャグではないが、なぜか私はこの話がすごく好きだ。

 また、学校で爪切りをしている男子が、自分が爪を切ると女子のスカートがめくれるという「びっくり能力」に気づき、気になる女の子のスカートをめくろうとするが、中々うまくいかず、最終的には切る爪が無くなり、血だらけになりながらも爪を切り続ける「つめくり」というお話がある。こちらも思春期男子の心情に、有り得ない設定をかけ算したギャグ短編になっている。

 思春期男子とは離れるが、「すごい!」と舌を巻いたのは、「FINAL ROUND」。こちらはセリフが一切なしで、ボクシングの試合が描かれている何の変哲もないお話だ。しかし、次の「FINAL ROUND(1コマずれる)」は、「FINAL ROUND」とコマ割りの大きさは変わらず、一コマずれて展開されると、重要な見せ場のコマと、そうじゃないコマが入れ替わり……という斬新な設定のもとに描かれている。ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、これが本作の中で一番驚き、笑った。

「驚き」と「笑い」が収められた本作。この「クセになる感じ」。ぜひ身をもって体験してほしい!

文=雨野裾