「友達はいらない」「わからないぐらいがちょうどいい」―詩集の映画化も決定! 最果タヒの初エッセイ集!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

『きみの言い訳は最高の芸術』(最果タヒ/河出書房新社)

「共感されたくて文章を書いたことなんて一度もなかった」。こう語るのは、『きみの言い訳は最高の芸術』(河出書房新社)の著者であり、いま注目の詩人最果タヒ。今年の4月に発表した詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(リトルモア)の映画化が決定したことでも話題となった。

 本書は、著者が詩を書き始めるきっかけにもなったブログに掲載された文章を中心にまとめた初エッセイ集。創作活動の原点ともいえるだろう。

喫茶店の片隅で、勢いでパフェとか頼んで後悔している、そんな人って最高です。

 これは「最初が最高系」というエッセイの最後の一文。読んだ瞬間、「え? 何で知ってるの?」と突っ込んでしまった方も多いのでは? パフェに限らず、人は「◯◯を食べたい」「◯◯をしたい」と思った時が一番幸せだという話だ。最後までおいしく食べられるものを選べばいいのに、欲望に負けて違うものを選んでしまう不器用さ、その人間らしさを著者は愛している。

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「わからないぐらいがちょうどいい」では、言葉に対する思いを、こう吐露する。

言葉は、気持ちや事実を伝えるために生まれた道具だ。人によってちょっとずつ違うものを簡略化して、互いに理解できる形に変える。(中略)どこまでも意味と紐付いているからこそ、使うだけで、言葉はその人だけの感情を押しつぶして少しずつ消していく。

 そして、詩人としての信念について語る。

言葉によって切り捨てられてきたものを、詩の言葉でならすくいだせると信じている。

 著者によれば、詩の言葉は理解されることを必要としていない。そして、そんな言葉が可愛くて仕方がないのだ。その人にしか出てこない言葉だから。この思いがあるからこそ、彼女の詩が多くの読者の心に響くのかもしれない。

 冬にこたつで食べるアイスが好きなら共感できること間違いなしの「アイスクリーム・イン・冬」。しかし、著者が冬のアイスを好きになったのは、「好きな食べ物だと決めた」からだ。そこから、本当の「好きな食べ物」に変容していき、今では「冬はアイスの季節」と言ってしまうくらい好きで仕方がないとか。なぜ冬のアイスを好きな食べ物に決めたのか。理由は本書で説明されているので、気になる方はぜひご確認を。ヒントは、神戸。

 本書では、「友達」についても頻繁に言及されている。そもそも、最初のエッセイのタイトルが「友達はいらない」であり、「みんなフレンドリーだね」では、こう語る。

友達なんて一人でもいるだけですごいことであとはもう無限と無限の二倍はおなじ(以下省略)。

 確かに、友達と呼べる人がゼロなのと、一人いるのではまったく違う。著者は、友達が一人いれば心に余裕が生まれて、それ以上は強く望まないそう。本書でも触れられているが、他人との距離の置き方は、人それぞれ。自分が心地よいと思える関係が築ければいいのだ。そう励ましてくれるような言葉だった。

 一部のみを抜粋してご紹介したが、本書には他にも魅力的なエッセイが数多く収録されている。見過ごしていたこと、見ないふりをしていたことを指摘されてハッとしたり、日常の風景に「分かる!」と共感したり。言葉を大切に綴り、決して押し付けることはない。心の隙間にそっと静かに入り、温かい気持ちで満たし勇気づけてくれる。「ブログに書くことで呼吸をするような感覚に近かった」と述べる最果タヒのエッセイ集を、多くの方に楽しんでいただきたい。

文=松澤友子