戦時中の日々を、1人の少女目線で描いた話題作!【映画『この世界の片隅に』レビュー】

マンガ

公開日:2016/11/22

『この世界の片隅に』(こうの史代/双葉社)

 2015年3月9日よりクラウドファンディングサイト「Makuake」でサポーターと資金を募り、総勢3374人から3912万1920円を集めた『この世界の片隅に』の映画化企画。原作『この世界の片隅に』(こうの史代)は、双葉社が手掛けているコミック雑誌『アクション』で、2007年1月から2009年1月まで連載されていた漫画作品。

 片渕須直監督の指揮のもと6年以上の歳月をかけて制作されたこの映画が、ついに先日2016年11月12日(土)より、全国63スクリーンで公開された。本作品は、戦時中の広島の人々の生活や激化する戦争、そして終戦へと向かう様子が描かれている。戦争中の日本の様子を描いた作品は多数あるが、本作の特徴は、何といっても日常が詳細に、丁寧に描かれているということ。

 広島市で生まれた主人公・すずは、絵を描くのが大好きな女の子。話は彼女目線で進んでいく。彼女は絵の才能に恵まれ、その絵は学校でも高く評価されていた。作中で、度々すずが絵を描くシーンが登場する。小学校時代、片思いしていた水原哲のスケッチブックに描いた「波のうさぎ」が跳ぶ様子は、美しく、まだ自由だったすずを表しているようで、映画が進んでいく中で思い返すと何とも切なくなる。

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 すずは、18歳の時、軍港の街・呉へと嫁いでいく。しかし戦争が激しくなるにつれ、物資や食料が不足し、次第に配給も減っていく。それでもすずは、野草を摘んできたり、お米が足りなければおかゆにしてみたりと、不器用ながら懸命に生きていく。その中で、昭和初期の人たちはこんな暮らしをしていたのか、と新鮮で新しい発見もあった。そんな、すずをはじめとする、一般の人たちの慎ましやかな日常が丁寧に描かれているからこそ、どんどん引き込まれ、戦争がその世界を侵食し蝕んでいく残酷さを強く感じる。

 また、描写の方法が非常に豊かなのも特徴。原作コミックも、鉛筆や口紅を使ったり、左手で描いたりと工夫が凝らされているが、映画でもそこに拘っており、水彩調の風景や、とあるシーンでの白黒の独特な表現が非常に印象に残っている。

 戦争に対しての強いメッセージを押し出すのではなく、あくまですずの目線で描かれるこの作品は、だからこそそこに生きる人間の心境や喜怒哀楽が心に沁み、強く突き刺さって、考えさせられる。また、すず役の声優・のんをはじめとする声優陣、楽曲を担当しているコトリンゴの儚く澄んだ歌声も、世界観と非常にマッチしている。すずのほわっとしたような、それでいてころころ変わる表情や、広島弁も魅力的だ。

『この世界の片隅に』の上映は、まだまだ始まったばかり。上映箇所が若干少ないが、少し遠出してでも見る価値のある作品。ぜひとも、1人でも多くの人に観てほしい。そして、末永く語られる作品になってほしい。

文=月乃雫