全員抹殺を試みるいじめ復讐劇『顔のない男』、最大の話題作『その女アレックス』シリーズ完結! 血生臭さは増すばかり…本年度最注目の海外ミステリーとは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

 近年、北欧ミステリーが世界的に大きな注目を集めている。ブームに火を付けたとされるのが、実写映画化もされたスェーデン発の『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』だ。しかし、魅力的なミステリー作品はなにも北欧だけではない。法廷もの、サイコサスペンス、冒険ミステリー、警察小説…とジャンルは多岐にわたるが、今回は、背筋が凍るようなスリルを存分に味わえる注目の海外ミステリー4作品を紹介しよう。秋の夜長にぜひ読んでみてほしい。

北欧発! 元クラスメート全員の抹殺を試みるいじめ復讐劇がはじまる…

『刑事ファビアン・リスク 顔のない男』
(ステファン・アーンへム:著、堤朝子:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 『刑事ファビアン・リスク 顔のない男』の舞台はスウェーデンの地方都市・ヘルシンボリ。壊れかけた家族とやり直そうと故郷の街に引越し、しばしの休暇を楽しむつもりだった刑事、ファビアン・リスクのもとに同級生が殺されたとの一報が入る。両手を切断され、顔には×がつけられた男の死体が見つかり、傍らには男の写る30年も前のクラス写真が残されていた。時を置かず別のクラスメートも凄惨な死を遂げる。容疑者はかつてクラスで壮絶ないじめを受けていた人物。過去の「怨み」を培養させ、ついに「元クラスメート全員の抹殺」を企てるという前代未聞の惨劇の一部始終を描いた、きわめて衝撃的なサスペンスだ。一人また一人と犠牲者が増えていく中、この物語が単純な「いじめ復讐劇」だけでは終らないのも大きなミソだ。ファビアンらが犯人と思われる人物を追いつめたと思われた矢先、予想を覆す思いもよらない秘密が読者に明かされることになる。本年度最注目の北欧ミステリー。

フランスで映像化決定! 標高2千メートルの吹雪のダムに吊された首なし死体とは!?

『氷結(上)』
(ベルナール・ミニエ:著、土居佳代子:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)
『氷結(下)』
(ベルナール・ミニエ:著、土居佳代子:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 『氷結』は、14カ国で刊行され、映像化も決定した全仏ベストセラー。本書は、名誉ある新人賞「コニャック・ミステリ大賞」を受賞し、次なるピエール・ルメートルと期待される作家ベルナール・ミニエの看板シリーズ1作目だ 。主人公はトゥールーズ警察の警部マルタン・セルヴァズ39歳。犯罪捜査部班長にして、クラシック音楽を聴きながら現場に臨場、謎が深まるとラテン語をつぶやく、と一見切れ者のインテリ刑事に思えるが、本書を読むとその期待はいい意味で裏切られる。皮を剥がれ吊るされた首なし死体の発見現場へ向かう道中、自然も高所も苦手なマルタンは胃が痛くなり、ヘリ酔いしてトイレに駆け込み、捜査パートナーを組むことになった女性憲兵隊大尉の美貌にドギマギし…と、とにかく頼りないのだ。マッチョな米国の刑事とも、いぶし銀な英国のスパイとも違うこのキャラクター造形はちょっと癖になる。肝心のストーリーだが、現場からある猟奇殺人鬼のDNAが採取され、事件は不気味な様相を呈すことに。というのも、その男は森の奥にひっそり建つある研究所に隔離されているはずで――。事件の組み立てや謎解きのスリリングさは、さすがのベストセラーといった読書体験を得られるので期待してほしい。

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残された子供331名、食料わずか1週間分。スティーヴン・キング絶賛のSFスリラー

『GONE ゴーン II 飢餓 上』
(マイケル・グラント:著、片桐恵理子:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 「GONE」シリーズは、スティーヴン・キングが「夢中になれる、実にすばらしい作品」と絶賛したSFスリラー。世界から突然「15歳以上の人間」が姿を消し、少年少女が、取り残された世界でサバイバルするという「奇妙な世界」を描く。何か事件があったわけでもなく、何の前触れもなく、明るかった普通の町は、突如「薄気味悪いゴーストタウン」になっていたのだ。恐怖と出口のみえない絶望を抱える中、15歳の誕生日が目前に迫ったある少年を実験台に「消える現象」の観察に挑むシーン、誰がリーダーになるか過激化する派閥争いなど、恐怖に駆られた子どもたちの残酷度は増していく。第2弾となる本書では、子供たちに“飢え”の恐怖が襲いかかる。大人が消えてから3カ月、気がつけば残る食料はわずか1週間分。彼らは畑の農作物を収穫しようと考えるが――冒頭からキャベツ畑での凄惨なシーンで始まり、寒い冬にもっとゾゾっとできること間違いなし。

ミステリー界を席巻した『その女アレックス』のシリーズが完結!

『傷だらけのカミーユ』
(ピエール・ルメートル:著、橘明美:訳/文藝春秋)

 2014年にミステリーランキングを総なめし、近年の翻訳ミステリーで最大の話題作といっても過言ではないピエール・ルメートルの『その女アレックス』。日本での発売は1作目と2作目が逆転しているが、彼のデビュー作『悲しみのイレーヌ』を含む「ヴェルーヴェン警部」シリーズ3部作の完結編が『傷だらけのカミーユ』だ。主人公・カミーユ警部の恋人が強盗事件に巻き込まれ犯人に襲われて重傷を負ってしまう。カミーユは、彼女との関係を隠して捜査を進めるが、犯人は恋人を執拗しつように狙い続ける。一方で強引な捜査が裏目に出てしまいカミーユは窮地に追い込まれることに―。はたしてカミーユは彼女を守ることができるのか? 男の悲しみと痛みを感じずにはいられない本作は、カミーユや犯人らの視点で進んでいく。英国推理作家協会賞も受賞した本作。ぜひシリーズを完読してピエール・ルメートルの世界にどっぷりハマってほしい。