累計101万部突破!“吹奏楽部女子”の人間関係をリアルに描いた『響け!ユーフォニアム』シリーズの魅力とは

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公開日:2016/12/1

『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』(武田綾乃/宝島社)

 嬉し涙も悔し涙も、真剣さの裏にあるものだ。何とも思っていないことに対して、人は涙を流すことはない。青春時代に仲間たちと何かに打ち込むこと、多くの涙を流す経験をすることはその人を輝かせてくれるだろう。

 武田綾乃著『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』(宝島社)は、吹奏楽コンクールで全国大会を目指す女子高校生たちを描いた青春小説。シリーズ累計101万部を突破した『響け!ユーフォニアム』シリーズの第1巻。ライバル校を描いた『響け!ユーフォニアムシリーズ 立華高校マーチングバンドへようこそ 前編・後編』も好評発売中だ。また、京都アニメーションにより昨年4月にはTVアニメ化、今年4月には劇場版、さらには10月からはTVアニメの2期がスタートするなど、その人気はとどまることを知らない。多くの人が今、“吹奏楽部女子”たちの青春に釘付けになっているのだ。

 舞台は、過去には全国大会に出場したこともある強豪校だったが、近年は関西大会にも進めていない、京都の北宇治高校吹奏楽部。中学時代、吹奏楽のコンクールで苦い経験をした黄前久美子は、入部する気はなかったのにもかかわらず、クラスメイトたちに流され、高校でも吹奏楽部に入部することになる。新しく赴任した顧問・滝昇の厳しい指導のもと、仲間たちと本気で全国大会を目指すことになるが、久美子は中学時代の経験から「努力したって報われないのでは」というモヤモヤとした思いを胸のうちに抱えていた。しかし、仲間たちと切磋琢磨し合うなかで、久美子は次第に変わっていく。そして、いよいよ訪れたコンクール当日…。さまざまな試練を乗り越えながら、少女たちは吹奏楽に青春を燃やし、確実に成長していく。

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 この作品の魅力は、女子高生たちの人間関係が丁寧に描かれていることにある。一見華やかで楽しそうな吹奏楽部だが、多くの部員を抱えるがゆえに、問題は後を絶たない。強豪校の日常は、こんなにもドラマティックなのか。真剣だからこそ、緊迫した空気が漂うことは少なくない。新しい顧問によって、ガラッと変わった部活の雰囲気。ハードな練習と学年を問わない実力主義でのコンクール参加者のオーディションのなかで、ソロを巡っての争いや、学業優先のために部活を辞める部員の退部問題など、あらゆる事件が発生するし、時には恋愛にも悩まされる。決して楽しいばかりの日々ではない。だが、どうしてだが、持てる時間のすべてをこの部活に捧げてしまいたくなってしまう。変わりゆく少女たちの姿があまりにもリアルだ。授業だけでは得られない、女子高生たちの心の成長。嫉妬や挫折を乗り越え、部活に打ち込む彼女たちの姿はまぶしく思えるほどだ。

 彼女たちのように、全身全霊で何かに打ち込んだ経験がアナタにはあるだろうか。吹奏楽経験者だけでなく、今青春を謳歌している10代の若者から、かつて青春時代を送った大人まで、このシリーズのみずみずしさは多くの人の心を温かくさせる。

文=アサトーミナミ