参考文献は100冊以上! 「すごい小説」と専門家が絶賛する『エクサスケールの少女』刊行対談 【『ダ・ヴィンチ』番外編】

文芸・カルチャー

2016/12/5

(左)井上智洋さん、(右)さかき漣さん

 人工知能(AI)の最前線を舞台に、一人の天才青年のスケールの大きな成長を描いた近未来SF大作『エクサスケールの少女』(徳間書店)。綿密な取材を重ねて世界を作り上げた著者・さかき漣さんと、「人工知能と経済」をテーマにした著書がある経済学者・井上智洋さんが作品について語り合った。

さかき・れん●作家。立命館大学文学部哲学科哲学専攻卒業。著書に、『コレキヨの恋文』『希臘(ギリシア)から来たソフィア』『顔のない独裁者』などがある(いずれも政治経済評論家とのコラボ作品)。2015年、『顔のない独裁者』が短編アニメ化。本作『エクサスケールの少女』が初の単著となる。

いのうえ・ともひろ●経済学者。駒澤大学経済学部講師。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。人工知能と経済学の関係を研究する日本の第一人者。AI社会論研究会の代表・共同発起人。著書に『新しいJavaの教科書』、共著に『リーディングス 政治経済学への数理的アプローチ』など。近著に、AIの発達でほとんどの人が仕事を失う近未来を予測して話題の『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』。

『エクサスケールの少女』(さかき漣/徳間書店)

井上智洋(以下、井上) 『エクサスケールの少女』とてもおもしろかったです。非常によく調べていらして、これだけ勉強していたら、普通は人工知能の話ばかり書きたくなってしまうと思うんですよね。それが、万葉集の和歌、出雲の神話、鉱石のうんちく、人種差別問題などの中に、人工知能の話も一つの要素として上手く織り交ぜられている。さらに、主人公の青磁(せいじ)の恋愛や、個人的な悩み、成長も見事に描かれている。これだけ多くのことが盛り込まれているにもかかわらず、各要素が齟齬を来すことなく一貫した物語の流れを形作っている。これはすごい小説だなと。

さかき漣(以下、さかき) ありがとうございます。私は多くの言葉やエピソードをダブルミーニングやトリプルミーニングで使い、作品全体を伏線だらけにしてラストまでもっていく、というのが好きなんです。知識面に関しては、自分がもともと興味があった文化芸術や神話、歴史、鉱石や宇宙については独学で何とかなりましたが、AIやシンギュラリティに関しては難しかったので。井上先生が代表・共同発起人をされているAI社会論研究会に参加して勉強したことが、すごく反映されています。それがないと書けなかったくらい。作品の中にも、研究会と井上先生にご登場いただきました(笑)。

井上 AI社会論研究会で議論されていた内容が、かなり反映されていて、リアリティがありました。自分が出てきたのも面白かったですね。聞かされてはいたんですけれど、どういう感じに出るのかなっていうのを楽しみにしていたんですよ(笑)。

さかき 作中に登場する、ベトナム人のマイも、ベトナムへ旅行した際にガイドをしてくれた女性がモデルなんです。台湾人のルオシュエンは、大好きなビビアン・スーの本名。ドイツ人のヨハネスも、ドイツ取材の際に懇意になった友人のひとりです。私の小説にはいつも、実在の人をモデルにしたキャラクターがでたくさん出てきます。

井上 作品に、日本文化への愛があふれている一方で、青磁のまわりにいる研究者たちの国籍は、アメリカ、中国、台湾、ベトナム、ドイツと多彩で、各国のアイデンティティーもテーマに盛り込んでいらっしゃる。博学だと思いました。

さかき うれしい。もっと言ってください(笑)。お互いが違う文化歴史や思考を持つために問題に直面することがあっても、黒白の二元論ではなく、美しいグレー、澄み切ったライトグレーを目指して、何とか上手く折り合いをつけていくことこそが、人類のユートピアへの道ではないかと考えています。

井上 ちょっとケンカしつつもね(笑)。それにしても、『エクサスケールの少女』は、壮大な物語でした、執筆は大変だったのでは?

さかき 正直、大変でした。まず私としては、シンギュラリティに出雲の神話を絡めてストーリーを構築したい、というのが前提でありましたので、出雲の各地に取材に行って。その他にも京都、福井、東北地方など、舞台になっている場所はすべて行きましたね。AIやシンギュラリティについては、複数の研究会に通って、多くの専門家の方にお話を伺いました。ドイツの学会ISCにも行ったので取材費だけで結構かかっているし、何より参考文献が多くて、たぶん100冊は超えていると思います。

井上 それはすごいですね! ネタバレになるので書けないと思いますが、お話を聞いているとびっくりするような伏線や、裏設定がすごく充実していて、攻略本が必要なレベルです。映像でも見てみたい物語です。

さかき ありがとうございます。本作が売れたら、ぜひ続編やスピンオフを書きたいです!

【本の内容紹介】

取材・文=波多野公美 写真=冨永智子