カジノ法案成立で、ついに日本にやって来る「統合型施設IR」。ギャンブル依存症大国の日本が取るべき道はこれだった!?

経済

公開日:2016/12/20

『カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?』(高城剛/集英社)

 本記事が掲載される頃には、成立しているはずの「カジノ法案」。その結果、数年後にいよいよ本邦初登場となるのが、カジノを含んだ統合型施設「IR(インテグレーテッド・リゾート)」である。ところでIRって? なぜカジノだけじゃダメ? などなど、国民の多くはわからないことだらけだ。

 そんな折、まさにタイムリーに登場して、これらの疑問にズバッと明快に答えてくれるのが、本書『カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?』(高城剛/集英社)だ。二者択一を迫るかのようなタイトルではあるものの、正解は早々にこう明かされる。

世界中の国家が観光収入を大きな財源と見るようになったこの十数年、各国で様々なカジノやIRが展開されているが、ジリ貧の衰退に向かっているのがカジノであり、国の経済を支えるほどに成長しているのがIRなのである。本書「はじめに」より

 IRとは、ホテル、ショッピングモール、飲食店、劇場などの娯楽施設、国際会議やイベント用のコンベンション施設等を網羅し、ファミリー層、ビジネス層、さらには世界中の富裕層までを集客する統合型施設で、カジノはその一部として機能する。

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 著者の高城剛 氏は、映像クリエイターとして有名(沢尻エリカの元旦那さんとしても知られる)だが、現在は、未来研究を行うマルチ・プロデューサーとして活動している。本書はそんな著者が、シンガポール、フィリピン、マカオ、ラスベガスやフランスなど、世界の名だたるIRやカジノを取材したデータに基づくIR入門書にして、提言の書でもある。

 日本がモデルにすべきIRとして、著者が本書でイチオシするのが、2010年に二つのIRを誕生させて、大きな経済効果と国としての成長戦略に繋げることに成功したシンガポールの事例だ。そのポイントをかいつまむと、実績とノウハウを持った外資系IRベンダーに設備からコンテンツ作りまでを一任し、外国人を集客して金を使わせ、国家も国民もノータッチのまま収益だけを吸い上げるという戦略である。

 実際、シンガポールでは自国民がカジノに入るには、高額な入場料(外国人は無料)と厳しい審査チェックがあるそうだ。こうした規制により、自国民がギャンブル依存や借金漬けになるのを防ぐ。著者によれば、「つくるのも、運営するのも、ターゲットもすべて外国人」というこのコンセプトこそ、IRの成功哲学であり必勝法なのだ。

 本書を読んで驚いたのは、著者の示すデータによれば、日本は既存ギャンブルだけですでに「世界トップクラスのギャンブル依存症大国」という現実だ。また本書には、数年前にニュースになった大王製紙元会長がIRに入れ込み、106億円の負債を抱えるまでの経緯も記されており、その意味からも、シンガポール方式の導入が熱望されるのである。

 こう書くとなにやら恐ろしげなイメージの強まるIRだが、うまく歯車が回れば、地域活性や国際国家として成熟するなど、様々なメリットがあることを海外の事例を紹介しつつ指摘している。そして何より著者が期待しているのは、IRというラストリゾート(最後の楽園)導入を機に、日本の旧型社会システムを大きく変えることである。

 著者のいう旧型社会とは、一部の政治家や企業だけが潤う利権構造がはびこる社会だ。もしシンガポール方式を導入するのであれば、この旧型システムは通用しない。その代わり、国全体がその恩恵を受けることができるだろうと、著者は本書の最後をこう結ぶ。

もはやIRの成功は、カジノや観光収入だけの問題ではない。それは戦後長く続いてきた社会システムを刷新し、日本が再生するために、そして、この国家が長く生きらえて いくために必要なことなのだろうと多くの地を見てきて実感する。
残されたこの最後の楽園が、旧来型の人々の欲望に食い尽くされぬことを、僕は心底願ってやまない。

文=町田光