93歳の大作家・佐藤愛子さんと3人の子供を産んだシングルマザー・桐島洋子さんの波乱な人生に学ぶ、強く生きる秘訣とは?【前編】

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公開日:2016/12/23

(左)佐藤愛子さん(右)桐島洋子さん

九十歳。何がめでたい』(小学館)が絶好調の佐藤愛子さんと、『あなたの思うように生きればいいのよ』(KADOKAWA)を12月8日(木)に発売したばかりの桐島洋子さん。

 “物申す女傑”というイメージが強いおふたりは、40年以上にわたる長いおつきあいで、この2冊を店頭で隣同士に並べて置いている書店も多く見られます。日々を元気に明るくはつらつと過ごしていらっしゃるおふたりに、「ひとりでも強く生きる秘訣」や「近頃何だか騒がしい世の中」についてどう思うか、久々に対談していただくことに。すると、出る出る! 思わず笑ってしまう、辛口コメントのオンパレードです。

日本の女性史を変えた女傑のふたり?

桐島洋子さん(以下、桐島) 佐藤さんの本、タイトルがいいですね。『九十歳。何がめでたい』って。本当に90歳におなりなのかしら?

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佐藤愛子さん(以下、佐藤) 93歳ですよ。これを書いたときは、91だったけどね。あなたは、おいくつになったの?

桐島 私は来年80歳。佐藤さんは80代半ばくらいかと思っていました。

佐藤 やっぱり90代に入るとね、本当に年だなあと思いますよ。

桐島 私、70歳くらいから、そう思い始めたけれど(笑)。 

佐藤 そんなことないでしょ。

桐島 やっぱり身体が衰えてきますね。

佐藤 私も、あちこち悪くなってる。ひどいもんですよ。でも、人前に出るとパワーが湧いてくるのが、悲劇のもと(笑)。ひとりでいるときは、ヨレヨレです。

桐島 一応この年代には、見栄というものがありますからね(笑)。

佐藤 桐島さんの新刊『あなたの思うように生きればいいのよ』を拝読して、私と似ているところがあるなあと思ったんだけど、何だったかしら……。この頃ねえ、すぐ忘れちゃうのよ(笑)。そもそもあなたとは、いつ頃からのおつきあいだった?

桐島 物書きとして、私が本当に駆け出しの頃。いわゆる「未婚の母」と言われ、スキャンダラスに取り上げられたときに、佐藤さんが応援してくださったの。「けなげだ」って。そんなこと、初めて言われたから(笑)。

佐藤 桐島さんはね、日本の女性史に残る人なのよ。私なんて残らないけど。それまでの女に対する日本独特の通念を打ち破った人ですからね。あなたは、歴史を変えましたよ。

桐島 はっはっは。歴史なんていうと偉そうだけど、もう、やけのやんぱちですよ。本当によく生き延びたと思いますね。それも佐藤さんのような方のご支援があったからですよ。当時そういう方は、なかなかいなかった。

佐藤 昭和50年代だったかしら。よく婦人雑誌で対談しましたね。

桐島 そうですね。ちゃんと認めてくださって、相手をしていただけた。

佐藤 私だって、まだペーペーだったから、応援したってどうってことなかったんじゃない?

桐島 そんなことないですよ。本当に心強かった。あれから、お会いするのはほんのたまにだけれど、物書きの先輩としてずっと尊敬してきました。

佐藤 いつだったか桐島さんが入院中に、週刊誌が何かつまんないことを書いたので、私が「けしからん!」って怒って書いたら、あなたは入院先から喜んでお礼の電話をしてきてくれたわね。

桐島 ああ、そんなこともありましたね。本当に頼もしい大先輩です。

ガラパゴス中のガラパゴス

桐島 佐藤さんは、インターネットとかなさらないでしょ?

佐藤 ああいうものは、全然わからないですよ。

桐島 私もあんまり得意じゃないけど、おかげで流行に飲み込まれないで済みました。あれで人々の思考がすっかり変わりましたね。あんなにいろいろな情報にまみれているのは、しんどいだろうと思いますけれど。

佐藤 そうなの? そういうものは、携帯で見るんですか?

桐島 携帯でも見ますけど、スマホで見る人が多いようですね。

佐藤 スマホと携帯は、別なのね。

桐島 スマホって、ちょっと大きいみたい。私が使っているのはガラケーとかいうもの。ガラケーって、どういう意味かしら?

――ガラパゴス化している携帯です。

おふたり(大爆笑)

――特に日本で、独自の進化を遂げたという意味だそうですよ。

桐島 じゃあ、私たちはもう、ガラパゴス中のガラパゴスね(笑)。

佐藤 私は、そのガラケーも持っていないんですから。もう、何が何だかわからない。原稿も手書きですよ。

桐島 原稿を手書きするのは、私はダメですね。かなり早くから、機械化しましたよ。首を痛めて、壁にぐったり寄りかかったまま原稿を書けるといいなあと、真っ先にワープロを買いました。さらにパソコンに進化しましたしね。

佐藤 パソコンで書いていらっしゃるの?

桐島 まだほかの人があまり使っていない頃からですよ。

佐藤 桐島さんは、進取の気性に富んでいますからね。

桐島 必要最小限ですから、原稿を書くことしかできない。他の機能は一切関係なしですけどね。

佐藤 私は、整理が悪い頭なんですよ。書くことで、だんだんわかっていく。

桐島 なるほどね。

佐藤 やっぱり書くという行為が必要なの。パソコンを使える人は、きっと頭の中で文章が組み立てられるのね。

桐島 ある程度はね。

佐藤 そうでないと、できないですよ。

桐島 佐藤さんは、原稿用紙がないとダメなわけですね。

佐藤 そう。書かなきゃ、次の言葉が出てこないの。パソコンは、前に書いたものが消えちゃうんでしょ?

桐島 保存しておけば大丈夫。入れ替えも簡単にできるし、とても便利ですよ。

佐藤 でも、慣れるまでやっかいでしょうね。

桐島 もし使っていらしたら、「こんな便利なものがあったのか」とお思いになるんじゃないかな。

佐藤 そうかしらねえ。やっぱり頭がいい人でないと……。

桐島 なんておバカな……と呆れるような人でも、なぜか使えるから大丈夫ですよ。

佐藤 私は、やっぱり自分で書くほうが整理できますね。時々書きつぶしの中から、前に書いた文章を拾い出して見比べて、一度捨てたほうを生かすとかね。そういうことで時間を食うんですよ。

桐島 そういう場合にこそ、パソコンだと便利なのに。

佐藤 それが具体的にわからないの。

桐島 本当に貴重なガラパゴスですね(笑)。

ああ、いちいちうるせえ

佐藤 私よく「佐藤さんのように強く生きるには、どうしたらいいでしょうか」という手紙をもらうのだけど、私みたいに生きたら、とんでもない人生になりますよ(笑)。これは性分なんだから、簡単に考えるなって言いたい。そんな性分でもない人が、同じように生きたいなんて思うことが、もう無理ですよ。

桐島 本当に恐れも知らず、よく言うよとあきれます。それはまあ、さっさと破滅してくれるでしょうけれど。

佐藤 そうですよ。泣きの涙で暮らさなきゃならない。

桐島 大変なことがあっても、自分の責任で何とか切り抜けてきたのは、好き好んでじゃなく、もうそれしかなかったからですよ。

佐藤 そうそう。別に覚悟して、やってきたわけじゃない。仕方がないのよね。そうしたいからそうした……っていうだけ。

桐島 誰かが助けてくれるわけでもない。自分で自分を助けるしかなかった。

佐藤 そうやって生きていれば、誰を恨むこともない。私が、夫の会社の借金を肩代わりしたのも、そのほうが楽だったからよ。借金取りから逃げるというのは、ものすごいエネルギーがいるんですよ。私が払うわって判子を押したほうが、その場を切り抜けることができたから、そうしただけの話。そんな大層な人生観があったわけじゃない。まあ、たまたま直木賞をもらったから、借金が返せたというだけの話なのよ。それは大変でしたけど、嘆いたってしょうがない。

桐島 私も、ひとりで三人の子どもを養わなければいけないと思うからこそ、働く気力も湧いてきたわけで。

佐藤 そうそう。私たちより前の時代の人なんて、もっと辛い人生だったでしょうね。だけど、誰がけしからんの、世の中が悪いのって、いちいちワーワー言わなかった。

桐島 グチグチ言って悩んでいるよりは、その分働くほうが、少しでも道が開けたからなんでしょうね。

――今はネットで何かをつぶやいたら、それがあっという間に全国に広がる時代です。

桐島 ネット語っていうのは、言葉が端的でしょ。しかも、パパッと送っちゃうから。私たちは、いったん自分から出た言葉には、責任を持たなければいけないと思ってきたけれど、多分その場で消えてしまうと思うんでしょうね。それも、匿名が多いでしょ。匿名なんてつまらないと思います。自分が自分であってこそ、物を書く意味もある。

佐藤 匿名だから、ああして何でも書くのね。

桐島 ちゃんと住所、氏名を書くぐらい、自分の言説に自信と責任を持ってほしいですね。

佐藤 それにちょっとしたことで、騒ぎ過ぎでしょ。さすがの私が、何もそんなことまで言わなくても……と思うようになりましたよ。ああ、いちいちうるせえなって(笑)。昔は、「いちいちうるさい」のは佐藤愛子だったのに。

桐島 すっかりお株を取られちゃいましたね(笑)。

【後編】へつづく

聞き手=川島敦子、撮影=原田 崇

(左)佐藤愛子さん(右)桐島洋子さん

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