ご依頼はリフォーム? それともリノベーション?「住まい」の裏に隠された人間模様を解き明かす新感覚“建築ミステリー”が面白い!!

文芸・カルチャー

2016/12/29

『建築士・音無薫子の設計ノート 謎(ワケ)あり物件、リノベーションします。』(逢上央士/宝島社)

「今回のご依頼は『リフォーム』でしょうか、それとも『リノベーション』でしょうか」。

 建築学を学ぶ学生、今西中(いまにしあたる)はインターン先の設計事務所で、とある女性建築士と出会う。彼女の名前は音無薫子(おとなしかおるこ)。薫子さんは依頼主に、そう問うのだ。

 『建築士・音無薫子の設計ノート 謎(ワケ)あり物件、リノベーションします。』(逢上央士/宝島社)は、「住まい」の裏に隠された人間模様を解き明かす、新感覚建築ミステリーだ。

 主人公の今西は、建築士という仕事に疑問を抱き始めて、学科の講義にも足が遠のいていた。「どうして建築士になりたいと思ったのだろう?」。夢を目指した時の気持ちが薄れ、疑問ばかり。悩んでいた。

 ある日、教授の推薦で渋々「音無建築事務所」にインターンに赴く。そこで出会ったのが、建築士・音無薫子。「――つべこべ言わす、アナタはこの部屋にしなさい」「ご要望はお聞きしますが、……まずその通りにはなりません」。およそ建築士らしからぬ発言を繰り返す薫子さん。今西は、そんな彼女に驚きを隠せないまま、研修生として行動を共にするが、薫子さんは天才的な観察眼と奇抜な発想で、依頼主さえ思いも寄らなかった「設計」を行う。

「リフォーム」と「リノベーション」の違い。教科書的な答えで言えば、前者が「修繕」、後者が「改修」らしいが、薫子さんが確認したいことは意味の違いではない。「私が思う、両者の違いは――問題の本質が『建築』にあるのか、それとも『人』にあるのかということです」。

 ただ住んでいる上での不便を解消するのがリフォーム。そうではない、住まいを通して「人」の心まで変えていくのが、リノベーション。建築を通し、依頼人たちの想い、後悔、トラウマを見抜き、「変化」を与える。薫子さんは、そんな一風変わった、しかし凄腕の建築士だったのだ。勝気で、時に横暴にも感じられる薫子さんの行動に戸惑う今西だったが、彼女の建築への向き合い方は、悩みを抱えていた今西にも「変化」を与えていく。

 本作は建築と「人の心を読み解く」という意味でのミステリーがベストマッチした物語。「住まい」と「人」は密接につながっている。「住まい」を変化させることで、「人」も変わることができる。改めて、「住環境」の大切さが分かった気がする。

 数あるキャラミス(キャラクター・ミステリー)の中でも、建築を絡ませたものは初めてではないだろうか(私の知る限りでは……)。その「新しさ」にも驚きだが、書かれている建築の専門知識にも舌を巻いた。どうやら著者は建築を学んだことのある方らしい。なるほど、それなら納得のできる「専門性」が詰め込まれている。

 とはいえ、ライトミステリー。専門的でありながらも、魅力的なキャラクターたちが登場し、ちょっとワケありの依頼人にまつわる謎は、手軽に読めて、ページを捲る手を止まらせることがない。

 新感覚建築ミステリー、体感してみてはいかがだろうか?

 

文=雨野裾