ヘルニア歴30年! サザンのパーカッショニスト・毛ガニこと野沢秀行さんに聞いた、腰痛との上手なつきあい方とは?【仕事中にできるストレッチ法】

音楽

2016/12/27

 かつて30代のある日突然、“腰の辺りにダンッ!という衝撃”を感じたサザンオールスターズの野沢秀行さん。“あれ? ぎっくり腰かな?”くらいに軽く考えていたら、実は腰椎間板ヘルニアを発症していたことが発覚。手術を受け、音楽活動を休止せざるを得ない時期を経て、医療チームが考案したトレーニングのもと腰痛と向き合うこと30年。その貴重な体験を、腰痛本『腰痛に負けない体を無理せずつくる!! 毛ガニの腰伝説』(野沢秀行/KADOKAWA)にぎゅぎゅっとまとめあげて、先日発売。なんの前触れもなく襲ってきた悪魔のような腰痛と、どううまくつきあってきたのか。野沢さんに直撃しました!

――専門医や治療家による腰痛本はたくさんありますが、腰痛体験者側からの本は珍しい印象があります。今回、本を出された直接のきっかけはなんでしたか?

野沢秀行さん(以下、野沢):もう還暦を超えていい年になったんですけど、思えば31歳から人生の半分近く“腰痛”とつきあってきたんですよね。それでみなさんから「その経験が誰かの参考になるんじゃない?」と言っていただいて。ひと口に腰痛といっても、人によってケースバイケースな部分があるじゃないですか。ならば僕の体験もひとつの例として、今腰痛に悩む誰かの役にたつかもしれないと思ったんです。長年サポートしてきてくれた方々に、本を通じて感謝を伝えたい気持ちもありました。

――30年前というと、まだネットもない時代。本書の冒頭で、野沢さんが週刊誌でパパイア酵素を使った治療法を見つけて主治医の先生に相談しつつも、そのやりとりにモヤモヤと不安を感じていた様子がすごく印象的でした。

野沢:当時はとにかく情報がなかったんですよね。書店で腰痛本を何冊も買って読みましたが、それぞれ違う観点で書かれていたり、セカンドオピニオンという言葉すらなかった。ほかの先生のお話も聞きたいなぁと思っても、診察室に「えっ!?」というピリッとした空気が走ったりして(笑)、そこはちょっと大変でした。

――そんな中で「即入院」と言われたときには、どんなお気持ちでしたか。

野沢:それまで健康だと思っていたのに、自分が体を壊して仕事を休むなんて、想定外なんですよ。メンバーのみんなが走っているのに、自分だけツアーを離れて休んでいる。病院にいなくちゃいけない。最初はそこがショックでした。

 できるなら周囲に隠しておきたかったんですが、それは無理でしたね。だんだんと痛みがひどくなってきて、演奏もできなくなってしまって。活動休止中に、サザンのコンサートを見に行ったことがあるんですよ。なんかね、不思議なんですよ、自分がいないステージを客席から見てるって。人には「勉強になるよ」なんて明るく言ってたんですけど、実はちょっとへこんでました。

――ヘルニアの手術を受けた後の数週間の安静期間で、コラムニストのボブ・グリーンの本を全読破されたとか。言葉が沁みて、涙を浮かべたこともあったと振り返られていて。

野沢:きっと手術を経て、人の命や生きることに対して感じやすくなっていたんでしょうね。今回本を書こうと思うまで、そのときの感情やしんどいことって、自分の中に封印していたみたいなんですよ。だんだんと思い出していくうちに、実は体の痛みよりも、仕事を休んで迷惑をかけてしまったこととか、人間関係にまつわることのほうがつらかった気がします。

 でも不思議なもので、時間がたつと「あの経験、しておいてよかったんじゃない?」と思えちゃう。思えばあれがあったからこそ、今の僕があるんじゃないかぐらいの大きな経験でした。超ポジティブシンキンガー(笑)。

 ちなみに当時の経験から、お医者さんを選ぶなら、僕たち患者とちゃんと意見を交換してくれるような先生がいいと思っています。気が合うか合わないかってレベルと、こっちの意見を聞いてくれるかくれないか、というあたりが基準ですね。

 痛み止めの注射ひとつでもちゃんと説明をしてくれる先生って、安心じゃないですか。質問したら答えてくれるオープンな先生。素人知識でも自分なりの考えをちゃんとお伝えして、それに先生が応えてくれると、いい循環ができるはずなんですよね。

■治らないならうまくつきあうしかない! 腰痛に負けない体をつくる

――この本で印象的だったのは、多忙なミュージシャン生活の中、野沢さんがゴッドハンド的なケアではなく、体の土台からつくり直す方針を選ばれたことでした。

野沢:最初は、ケア的なこともいろいろやったんですよ。それこそ、いろんな人がいろんなアイディアをくれるので、お灸や気功に整体などなど。ワラをもすがる思いでそれなりに有名なところへ行ったんです。でも結局は腰の手術を受けることになった。それで「体を根本的に変えないとだめだろうな」と思ったんです。

――ご自身で体感されたんですね。

野沢:そうですね。あとは、楽器を演奏したいという明確な目標があったので、そのためにはどうしたらいいのか、いろんな方に相談するうちにトレーナーの方に出会ったり。そこでも「体をつくり直しましょう」とアドバイスされて、まずは立つことから、体の基礎づくりのトレーニングから始めました。

 最初は足腰を鍛えなきゃと思って、ただやみくもに自己流でどしどし歩いていたんですよ。でもプロに論理的なノウハウをいただいてからは、水中歩行を取り入れたり、登山をしながらの心拍トレーニングを加えたり。

――そう、腰をかばいながら登山もされているくだりは、ちょっと驚きました。

野沢:たとえば高尾山の場合。最初は頂上まで2時間半くらいかかってましたが、今は普通に1時間半位で登っています。ルートを決めて、最後の250段くらいある階段で心拍数をバーンと上げて、そのままもみじ台まで行ってから休むんです。立ち方や歩き方は腰にとても影響するので、靴選びにもこだわります。体に優しい登山靴をオーダーメイドしたり、膝に優しいやつを買ってみたり。これぞ!という一足にたどりつくまではけっこう何足も買ったりしました。

――本には靴のほかに腰ベルトのコレクションも載っていますね。体調や天候、その日の気分に合わせてセレクトされているとか。

野沢:腰を支えると楽なので、つい買っちゃうんですよ。たぶん全部で30~40くらいはあるんじゃないかな。コンサートでは短パンとくっついているズレないタイプを着用したり。気をつけないといけないのは、腰ベルトがないとこわくなっちゃうことなんです。ベルトを“つける勇気と外す勇気”、両方大切ですね。

――腰痛アイテムに加えて、おすすめの温泉コーナーも新鮮でした。腰痛もちの方におすすめの入り方があったらぜひ教えてください。

野沢:僕の場合、だいたいトレーニングと温泉、パッケージで行くんですね。山歩きのトレーニングで温泉のある土地に行って、体調をみながら2~3時間歩いてから、最後に温泉に入ってリラックスして帰ってくる。目標があると励みになります。

 温泉では、一回汗をかくまでお湯につかったら、一度出て湯船のそばでのんびりする。体が冷えてきたらもう一回お湯に入る。じわっと汗をかいたら外に出て、できれば30分くらい仮眠して、それからもう一度入浴する。温泉から出たら、服を着たときに汗をかかない程度に湯冷ましをして。ポイントは、じっくりのんびりと体を芯からあたためることです。

 最近ハマっているのは栃木県那須塩原にある「ゑびすや」ですね。強いんですよ、お湯が。腰痛にやられてから、僕はにごり湯好きになっちゃった。にごり湯は出たあとが違うんですよね~。にごり湯は明らかに腰が楽ですよ。

――山を歩いて、お湯に入って。気持ちもすっきりしそうですね。トレーニングのときの歩き方にコツはありますか。

野沢:ゆっくり歩く。かつ、背筋を伸ばしてなるべくまっすぐに歩く。入場行進ではないですが、ちゃんと足を上げて手も振って歩くイメージです。左右のバランスを良く、ガニマタにはならないように。意識して歩くのとだらだら歩くのは違いますね。靴底の減り方も変わってきます。それは自分でもわかりますよ。

――歩き方を注意することなら、誰でも手軽に取り入れられそうですね。本書にはストレッチや体操も紹介されています。これから腰痛を予防したい人におすすめするとしたら、どのあたりでしょう。

野沢:朝起きてすぐベッドの上でできるストレッチですね。仰向けのまま手足を伸ばして、グーパーと握って開いて、自分の体に「起きるよ」って呼びかけるんです。そのあと両手両足を真上に上げて少し振るんですが、ひとつひとつの動きはできるだけ、ゆっくりとスローに。太極拳じゃないですけど、そんな感じでやっていただけるといいですね。

――「毎日15分の毛ガニ体操」には、体の硬い私にはちょっと難しいものもありました。ヨガみたいに、できない人はできないなりでもいいんでしょうか。

野沢:うんうん。イメージから入っていけば、大丈夫! あわてずにゆっくりやっていけば、体はだんだん伸びていきます。体操でなくとも、コーヒーを飲むためのお湯がわくまでのすきま時間に、体をまっすぐ伸ばして立ってみるとか、バス待ちのときに、軽く横歩きや後ろ歩きをしてみるとか。歩道橋があったら、歩道橋を山に置き換えて登ってみるとか。「ああ、上がったな~」ってちっちゃな達成感で楽しくなる。

――自分ができる範囲からで大丈夫なんですね。

野沢:僕はそう思っています。腰痛対策やリハビリを、日常にできるだけ自然に取り込んじゃおうと。毎日やっていれば「今日は調子いいなあ」とか、自分でわかってきますよね。大切なのは、楽しくやること。トレーニングで山に行ったら春の草とか、秋の空気を楽しんだり、携帯ガスボンベを持って行って、コーヒー飲んだりとか、自分に酔いしれたりもするわけです(笑)。歩きながら「あっ、今日はだめかもしれない」と感じたら、そこから戻ってくればいいんですよ。だめだったら、頂上を目指さないこと。それを覚えてから、ずいぶんと楽になりましたね。ストレッチも体操も、毎日やらなくちゃいけないんじゃなくて、できるときやればいい。それでいいんですよ。大丈夫。

――野沢さんのお話をうかがっていると、なんだかすごくほっとして、ポジティブな気分になってきます。

野沢:腰痛やヘルニアになっちゃったら、もう落ち込んでもしょうがないですもん。あとは「じゃあどう対策していくか」ということだけ。いろんな人がいろんな本を出してるじゃないですか。ひととおり目を通すんですけどね、「これは効く!」と断言されても、僕は「ほんと~?」みたいに思っちゃう(笑)。ヘルニアは簡単には治らない。むしろ腰とうまくつきあっていくことのほうが大切なんです。

 今はいろんな腰痛本が出ているので、逆にいろんな本を読んでもらいたいですよね。さまざまな治療法や腰痛とのつきあい方の形があって、その中で、僕の考え方みたいなものをわかっていただけると楽しいかなと。もし転んでしまっても、ただでは起きない。「痛めちゃったらしょうがないね」って受け入れると、また少し違った世界が見えてきます。とにかく前向き思考でいきましょう!

取材・文=タニハタ マユミ 写真=内海裕之

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イラスト:寺井麻美