谷中、根津、千駄木、上野のお散歩にピッタリ! 普段使いの行楽地・下町エリアの街歩きガイド

暮らし

公開日:2016/12/27

『谷中・根津・千駄木・上野+湯島(散歩の達人handy TOKYO GUIDEBOOK)』(交通新聞社)

 世界に名だたる大都市である首都・東京だが、丸の内や新宿などの高層ビルに囲まれた光景はその一面でしかない。特にJR山手線の北側、巣鴨駅から鶯谷駅間などは駅前こそ高層マンションもあるのだが、その先はすぐ住宅や商店が広がり、いわゆる下町エリアとなる。中でもJR山手線日暮里駅からほど近い谷中をはじめとした、「谷根千(やねせん)」と呼ばれるエリアはその代表格だろう。この『谷中・根津・千駄木・上野+湯島(散歩の達人handy TOKYO GUIDEBOOK)』(交通新聞社)はその谷根千地区に上野と湯島界隈を合わせた一帯のお散歩ガイドだ。

 そもそも谷根千とは文京区から台東区一帯に渡る谷中・根津・千駄木周辺地区を合わせた通称で、上野や湯島にもほど近いエリアだ。寺社仏閣も多く、住宅街でありながら観光地としても人気のスポットである。本書では、その谷根千地区と上野・湯島地区の見どころを豊富なカラー写真で紹介している。

 小生は以前、文京区の北側に隣接する北区に住んでおり、何度か谷中の商店街「谷中ぎんざ」界隈を散策していたのだが、本書を読んで見逃していたスポットに気づかされる。それが「谷中霊園」だ。当時はいつも日暮里駅西口改札を出て左に歩き御殿坂を上り「谷中ぎんざ」へとまっすぐ向かっていた。その坂を上る途中で左手に現れる墓地が「谷中霊園」である。そこから見えるのは、ほんの一部だけだったので以前は気にも留めなかったが、その奥には10万平米に及ぶ霊園が広がっていたのだ。

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 実は著名人も多く眠る場所で、歴史好きや外国人観光客などにも話題のスポット。本書ではその代表として、江戸幕府最後の将軍である徳川慶喜公の墓所を取り上げている。将軍家の墓所だけにそこは広く区画が取られていて、脇に目印となる「徳川慶喜公墓所」と書かれた石柱も立っている。だが、墓所を仕切るフェンスに掲げられた三つ葉葵こそが、もっともそれを指し示すのではないだろうか。葵の御紋は、今でもその威光を失っていないと思う。また園内には俳優の森繫久彌や日本画家の横山大観、第52・53・54代総理大臣の鳩山一郎の墓所もある。

 霊園散策の後は、ぐるりと回って御殿坂を上った辺りまで戻ろう。西へ少し進むと現れる下りのコンクリート階段は「夕やけだんだん」と名付けられたスポットだ。そこから見下ろす下町情緒あふれる商店街の夕景は小生自身も好きな光景で、何度かデジカメで撮影に挑んだが、どうにも綺麗に撮れなかった思い出がある。そこを下りた先にあるのが「谷中ぎんざ」。地元の生活を支えるお惣菜も豊富で、訪れるたびに揚げたてコロッケを頬張りながら歩いたものだ。個性的な店舗も多く、猫の尻尾を模したスティック焼きドーナツの店「やなかしっぽや」も楽しい。

 ついつい思い入れのある谷中に気を取られてしまったが、本書の範囲は谷中だけではない。千駄木・根津地区にまたがる不忍通りを中心に並んだカフェや古本屋は、とても洒落た感じで気持ち良く、重要文化財であり徳川家ゆかりの根津神社は歴史的な見どころだ。そして、上野の項目ではやはり動物園や美術館の紹介がメインとなる。今年、世界遺産登録された国立西洋美術館をはじめ、東京文化会館や東京都美術館などの名建築を見比べるのも楽しい。

 小生は東京を離れて以降、都内の下町散策からすっかり足が遠のいてしまったが、本書を読んで久々に行きたい気分に。そんな中で、上野駅前から谷中界隈をめぐる巡回バスがあるのを思い出した。台東区の運営する循環バス「めぐりん」だ。狭い下町をめぐるため小型バスを用い、そのレトロなデザインは小生もお気に入り。1乗車につき100円、1日乗車券も300円なので、興味のある方は是非とも活用してほしい。実際、谷根千から上野湯島巡りは、歩くとなると結構な距離になるので……。

文=犬山しんのすけ