無印良品が注目した「これ『で』いい」の幅広さ。個性の一歩手前で止めたMUJI式のマーケティングとは?

ビジネス

公開日:2017/1/5

『MUJI式 世界で愛されるマーケティング』(増田明子/日経BP社)

 国内で成功すると海外進出する日本企業は多い。しかし、成功するのはほんのひと握りだ。そんな中で、海外にファンを増やし、着実に店舗数を伸ばしている企業がある。「良品計画」だ。なぜ、国内でも海外でも多くの人の心を惹きつけたのか? その理由がわかる本『MUJI式 世界で愛されるマーケティング』(増田明子/日経BP社)を取り上げる。

万国共通で心地よさを感じるシンプルさ

 国によって生活習慣が違い、文化も異なる。そのため、多くの企業は現地の嗜好に合わせた商品を提供しようとする。しかし、無印良品はMUJIブランドで出す商品も日本と同じ仕様で売り出して成功している。それはなぜか? 日本人でも欧米人でも東南アジア人でも、人間が本能で「心地よい」と感じるものはほぼ共通しているという点に着目したからだ。本能的に心地よいと感じられる商品を開発すればどこでも売れるという発想が無印良品らしさの根本にある。無印良品は幅広いジャンルの商品を取り扱っているが、すべてのジャンルに「シンプル」で「自然」という一本ぶれない筋が通っている。そのため、どこの国の生活にもうまくなじむ余白があるにもかかわらず、ただ単にシンプルなだけのどこにでもある品物にはならないMUJIらしさが生まれたのだ。

無印良品が注目した「これ『で』いい」の幅広さ

 無印良品は、地味でこれといった特徴がない。それなのに、世界中で愛されているブランドとなり得たのは、特徴がない点を最大限に活かしたからに他ならない。他のブランドは「これ『が』いい」と選んでもらうことを目指し、個性を押し出す戦略で作られているのに対し、無印良品は大多数の人が「これ『で』いい」と選ぶことを目指して作られている。「これ『が』いい」を目指すと、個々の細かい嗜好に合わせて商品を開発するため市場規模は限られるが、「これ『で』いい」を目指すと、他のブランドと顧客を取り合うことなく分け合うことができるからだ。例えば、地味な商品を好む人のニーズと、個性を重視する人の普段使いというニーズを共通してカバーできるような商品開発をする。そうすれば市場は何倍にも広がるという具合だ。

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MUJI式のアンチテーゼ

 あえて強烈な個性を出さない商品を開発してきた無印良品だから、世の中の流れにうまく身を任せてきたというイメージがあるかもしれない。しかし、無印良品が持つアンチテーゼの精神が、他から模倣されない商品づくりを可能にしてきたことは間違いない。もともと高級ブランドをもてはやす時代の流れに反して誕生したのがノーブランドの無印良品だ。店にこそブランドのロゴはあるが、商品それぞれにブランドはない。誰がデザインしたかが分からないように個性的なデザインをしないデザイナーを雇い、商品にはその商品が開発されたコンセプトだけを詳しく記載するという方法を採っている。専門分野に絞って小売りをするカテゴリーキラーを目指す企業が多い中、手広くジャンルを絞らずに商品開発するのも無印良品ならではのアンチテーゼのひとつだ。他社がしないことをあえてすることで、無印良品に真っ向から対抗できる企業をなくしたのだ。

戦略的に守られ続けるMUJIらしさ

 無印良品では、個性が生まれる一歩手前で止める商品開発をしている。そうすることでシンプルなのにダサくない、持って恥ずかしくないナチュラルな商品に仕上げることができる。ただ単純にシンプルで地味なだけの商品づくりをしたのでは市場は限られてしまうが、地味を好む人にも派手を好む人にも好まれるちょうどよいデザインに作り上げれば、市場は限りなく広がる。そうした商品開発の中で生まれたのが「無印良品らしいシンプルさ」だ。無印良品らしい商品を開発し逆に無印良品らしくない商品は除外することが、MUJI式マーケティングの根底にある。そして、その助けとなっているのが消費者の声だ。消費者参加型で商品開発することが、多くの人に愛される商品を生み出すカギになっている。

 無印良品は、ブランド自体は地味だが、マーケティングはとことん計算された意外なほどに戦略的なものだった。無印良品のマーケティングは他社も真似できないのだからさすがだと唸らざるを得ない。

文=大石みずき