「トランプのアメリカ」は中国にどう対峙する?

社会

公開日:2016/12/31

『トランプVS習近平 そして激変を勝ち抜く日本』(KADOKAWA)

 2016年、イギリスのEU離脱の国民投票に続いて、もう一度世界が驚いたのは、アメリカ大統領選におけるドナルド・トランプの当選、といって間違いないでしょう。米国内で貧富の格差がますます拡大するなか、保護貿易主義を掲げるトランプが大統領になることは、冷戦終結後、グローバル化へと歩を進めてきた世界経済にとって大きな衝撃です。かつての「モンロー主義」にアメリカが回帰するのでは? と心配する人も少なくないかもしれません。

 しかし、いま多くの日本人がほんとうに気にしていることは、選挙戦でトランプが語った「誰かが日本を攻撃したら、われわれは第三次世界大戦を始めなければならない。しかし、そこで日本は助けない。フェアじゃないだろう」という言葉ではないでしょうか。

 経済力をつけて海洋進出の野心を隠さないようになった中国に対し、アメリカの存在はもう歯止めにならないのでは? そのとき、日本はほんとうに尖閣諸島を中国に奪われるのではないか? もしかしたら沖縄にも手を伸ばすのでは……これが「トランプのアメリカ」で日本が経験するだろう、最悪のシナリオかもしれません。

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 さて、こうした誰も予想しない出来事が起こると、しばらく経ってから書店にその関連本が一気に並ぶのは、出版界の常ともいえる現象です。しかし現在の書棚を眺めるかぎり、そこに置かれているのは「トランプとは何者か」「なぜアメリカはトランプを選んだのか」という視点がほとんど。そこで先に述べたような、新しい米中関係と日本、という視点で「トランプのアメリカ」を論じられている一冊が、気鋭の中国ジャーナリストである富坂聰氏の『トランプ VS 習近平 そして激変を勝ち抜く日本』(KADOKAWA)です。

 本書のなかで富坂氏は独自の情報網を通じ、日本のメディアでは決して報じられない真の米中関係を読み解いていきます。2016年に米中が激しくぶつかりあった、南シナ海での争いとはなんだったのか? 日本国内では、ルールを守らず人工島を建設した中国の横暴に国際社会が待ったをかけた、という論調の報道がされましたが、その背景にあったのは米中の露骨な「海をめぐる争い」、そしてアメリカの驚くべき「世界戦略」だ、と富坂氏は語ります。

 それでは、そこで中国との尖閣問題を抱える日本と「トランプのアメリカ」の利害は一致するのか? 冷戦期には「アメリカの傘」に入ることが、日本にとってもアメリカにとっても「国益」でしたが、これからもその関係は続くのか? そうした問いに富坂氏は「トランプのアメリカ」の行動原理を予想しながら、明確に答えていきます。

 2017年1月20日には、新大統領の就任式が行なわれ、いよいよ動き出す新しい世界情勢。年末年始に今後の世界で何が起こるのかを考えておくためにも、ぜひお勧めしたい一冊です。