『東京タラレバ娘』実写ドラマスタート! ……の前に読んでおきたい、東村アキコの傑作マンガ3選

マンガ

公開日:2017/1/9

 1月18日(水)よりついに実写ドラマ放送スタートする『東京タラレバ娘』(東村アキコ/講談社)。「30代は自分で立ち上がれ。もう女の子じゃないんだよ?」「あんたらの歳だとチャンスがピンチなんだよ」など、アラサーの心にぶすぶす刺さる名言を連発し、世の女性たちの阿鼻叫喚と激しい共感のトルネードを巻き起こしている作品だ。『ダ・ヴィンチ』2月号(1月6日発売)では、「なんなんだ!! 東村アキコ リターンズ」と称して、著者の東村アキコを大特集。

 東村アキコの神髄は決して“女子のあるあるを炙り出す”ところにあるわけではない。「マンガ大賞2015」や第19回文化庁メディア芸術祭でマンガ部門大賞を受賞した『かくかくしかじか』は、師匠との絆や後悔を通じて自身の半生を描いた自伝的マンガ。上杉謙信女性説を独自に唱えた初の歴史マンガ『雪花の虎』や、グルメミステリー『美食探偵 明智五郎』などその作品は多岐にわたり、どの作品にも鋭い洞察力とエンターテインメント性あふれる表現力が光っている。ここではその中から3作品をご紹介しよう。

東村アキコの実父がモデル!? 『ひまわりっ ~健一レジェンド~』

 東京の美大を卒業した後、地元に戻り、コネで父・健一の勤める会社に入社した主人公・アキコ。出入りする植木レンタル会社の青年・健一に恋をしたことをきっかけに、夢だったマンガ家をふたたびめざすことにする。

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 と、あらすじだけ聞けば、アキコの恋と成長の物語のように思えるが(実際その側面も多分にあるのだが)、注目すべきは副題にもあるとおり二人の健一、それも青年ではなく父親のほうだ。

 この父・健一がなんといってもキャラが濃い。人の話は聞かない、想像の斜めをいく行動をくりかえすいわゆるKY男で、クリスマスケーキを自転車のかごに縦につっこみ「箱に入れているのになぜ崩れるんだ!」とキレるなど、その伝説には限りがない。驚くべきは本作に出てくる父・健一のモデルは東村アキコの実父であり、その行動はほぼすべて“実話”だということだ。

 さらに、青年・健一のほうもかなり天然で間の抜けた男で、アキコの周辺に搭乗するのは同僚も先輩も恋敵もみんな、“アクが強い”なんて言葉じゃ足りないほど奇想天外なキャラクターばかり。実話をベースに破天荒なキャラクターが登場するコメディを展開させながら、同時に恋や仕事への苦悩を少女マンガらしく描き出す本作は、東村アキコのもつ鋭さと笑いのセンスが詰まりに詰まった傑作なのだ。

新しいシンデレラストーリー『海月姫』

 能年玲奈(現・のん)主演で実写映画化され、菅田将暉の女装姿も話題となった本作は、腐女子・月海が主人公の物語。「男は必要としない人生」をモットーに、ジャンルは違えど何かしらの趣味に没頭する、ほぼニートのオタク女性集団「尼~ず」とともに暮らしている月海だが、超絶美形の男の娘・蔵之介との出会いをきっかけに生活が一変。「私なんておしゃれしても仕方ない」「自分たちは自分たちだけの世界で完結していればいい」と思っていた月海たちは、少しずつ心の城塞を打ち崩し、おしゃれへの扉が開きだす。そしてついにはアパート取り壊しの危機に立ち向かうため、自分たちの特性を生かしてファッションブランドを立ち上げることになるのだ。

 とはいえ人間の根本はそう簡単に変えられない。ファッションの魅力を伝えながらも、本作ではオタク趣味も非リア充であることもまったく否定されない。だが、生きていくには武装が必要であること。そして、好きなものを胸張って好きだと言うために、そんな自分を守るためにできることをするのだと主張し、蔵之介は月海を導いていく。その微妙な関係性にも目が離せないが、蔵之介の兄で政治家秘書の修と恋に落ちる展開も。オタク女子とファッションを組み合わせたまったく新しいシンデレラストーリーなのである。

読めば無傷では済まない! 全国の独身女性の心をグサリ。『東京タラレバ娘』

 冒頭でも紹介したとおり、アラサー独身女性の阿鼻叫喚と共感を巻き起こしている本作。タイトルは、「もし~だったら」「もう少し~すれば」とどうにもならない談義を肴に「結婚できない」「いい男がいない」とくだをまいて飲み明かす主人公・倫子とその親友2人(全員33歳)を見た、若き美青年モデル・KEYに「このタラレバ女!」と罵倒されるところに由来する。

 理想ばかりを掲げ、現実から目を背ける言い訳にきれいごとを並べ立て、気づけば独身道を突っ走っている現状をつきつけられた倫子の、「だったらどうすればいいのよ!」という叫びはおそらく全国の独身女性共通のものだろう。いや、東村アキコいわく、本作を刊行したあとに男性からも「なんておそろしいものを描いてくれたんだ」という声があがったというから、おそらく本質的には男も女も一緒なの。

 本作では、KEYを指南役に、仕事でも恋愛でもがけっぷちの倫子が人生をあがく様子が描かれるが、問われているのは「どうしたら結婚できるか」ではなく、30代の女性が自分の人生に責任をもってどう生きるべきかという生き様だ。KEYとのうっすら恋の気配は漂っているものの、「年下男子とくっついて大逆転」なんて都合のいい展開にはならないはず。なぜならそれは、ゴールじゃない。恋をしようが結婚しようが、相手次第で揺らぐような人生では意味がないのだから。2017年の抱負を決める参考に、ドラマ化を機に読んでみることをおすすめしたい。ただし、読めば無傷では済まないので取り扱いにはご注意を。

文=立花もも