作品鑑賞だけで終わらない!何度でも通いたくなる美術館に隠された“レストランの魅力”

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12


『美味しい美術館 PARTII』(飯田郷介/求龍堂)

 今年7月に、東京・上野の国立西洋美術館が、世界文化遺産に登録された「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」の世界7ヵ国・17資産のひとつとして、唯一、日本から選ばれたというニュースも記憶に新しい。

 普段、私たちが美術館に足を運ぶときは、所蔵作品や特別展など、作品を鑑賞することがメインになりがちで、作品を見終えると、すぐ帰ってしまうことが多い。『美味しい美術館 PARTII』(飯田郷介/求龍堂)を読むと、今までの美術館巡りは“もったいない美術館探訪”になっていたことに気づくかもしれない。

 著者は、美術の専門家ではない。大手建築会社の建築設計部を経て、企業の様々なミュージアムの建築プロデュースを長年手がけてきた人物。既存の美術館ガイドとは、異なる構成が魅力の一冊だ。前著『美味しい美術館 美術館の雑学ノート』に続き、今回は、三菱一号館美術館、大和文華館、横浜美術館、ベルナール・ビュフェ美術館、北澤美術館の5館が紹介されている。

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 著者は「作品を鑑賞して」「建築空間に感動して」「美味しい食事を堪能して」と、ひとつの美術館で、何度でも美味しく味わえる美術館紹介をしたいと考え、美術館を含めた空間全体を“鑑賞”することに焦点を当てている。

 本書の構成は、美術館ごとに美術館の「見どころ」美術館の建築に関わった人物や歴史の「魅どころ」美術館のレストラン紹介の「味どころ」「散策のヒント」からの4項目からなる。どの項目も一般向けに丁寧な解説がされており、特に「魅どころ」については、建築の専門家の視点から、美術館創設の時代背景や、丹下健三、菊竹清訓のような近代建築史に残る偉大な建築家のエピソードなどが満載だ。美術館だけではなく、代表的な近代建築への知識を深めることができる。

 一方、美術品についても、岩崎彌之助と小彌太の親子二代や、原三渓といった時の実業家も登場し、いわゆる日本の“メセナ活動”の先駆けがあったおかげで、今日まで無事保護され、引き継がれていることが理解できる。美術好き、近代建築に感心が高い人、双方に満足できる内容となっている。

 さらに、美術館や作品鑑賞の後にあるお楽しみの「味どころ」については、併設のレストランがない場合でも細やかな周辺取材により、美術館の鑑賞後の余韻にふさわしい食事の場の紹介がされている。また「散策のヒント」では、テーマとなっている美術館と関わりのある別の美術館にまで深く触れている。本書は、ひとつの美術館紹介の項目から、読者が興味を持ったいろいろな角度を選んで、何度でも味わい尽くせるのである。著者からの「建物への関心」「親しみをもっとかんじていただければ」いうメッセージとともに、美術館へ何度も足を運んでもらいたいとの熱い思いが、ぎっしり詰まった一冊となっている。

 この冬の旅の目的のひとつに、美術館を加えてみるのはいかがだろう。きっと「美味しく」堪能できるはず。

文=小林みさえ

※書名「美味しい美術館」は、商標登録されています