一番不幸なのは誰なのか決めませんか?―怪しげな美女に誘われた、幼なじみの男性三人の不幸決定戦とは!? 『失恋ショコラティエ』水城せとな最新作!

マンガ

公開日:2017/1/11

『世界で一番、俺が◯◯』(水城せとな/講談社)

『世界で一番、俺が◯◯』(水城せとな/講談社)は、ドラマ化した『失恋ショコラティエ』や映画化した『脳内ポイズンベリー』の作者である水城せとな先生の最新作だ。個人的に両作品とも大好きだったので、本作もワクワクしながら手に取った。

 一言で言えば、「早く2巻が読みたい!!」。そして「さすが水城先生、ハズレがない」という感想になる。(二言になった……!)。どうして水城先生のお話はこんなに引き込まれるのだろう。面白いのだろう。

 違うコミックスのあとがきで、水城先生は「たいてい、自分の作品はラストまでしっかり決まっている」というようなことを書いていたのを思い出した(うろ覚えの情報で申し訳ないが、大体そんな意味だったと思う)。となると、本作も「ラスト」が決まっているはずなのだ。水城先生の作品の面白さは、そのラストに続く「計算し尽くされた展開」が秀逸過ぎる……のかもしれない。

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 前置きが長くなってしまったが、肝心のあらすじをご紹介しよう。

 超エリートの高額納税者でありながら、クールで人間不信な「柊吾(しゅうご)」。イケメンで処世術に長ける愛されキャラ、ただしニートな「アッシュ(外国人というわけではなく、ニックネーム)」。顔も頭もそこそこ。身長も低いけど、癒し系で純真無垢な「たろ」。3人は幼なじみの仲良しアラサー。

 職業も見た目も考え方も異なる3人の前に突如現れたのが、「セカイ」という組織から派遣された怪しげな美女「773号」(ナナミと呼ばれる)。

 彼女は、とある目的があり、人間の不幸について実例データを収集しているという。そのため3人には「不幸を競ってもらい」、300日後に「一番不幸になっている人」の願いを、なんでも叶えると言い出す。最初はナナミを信用しなかった3人だが、「セカイ」の力を知り、彼女の申し出を信じて、不幸の「競い合い」を承諾する。

 さて、一番不幸になるのは誰か? そして勝者は、どんな願いを叶えてもらうのか? 仲良し3人の関係は、この「不幸ゲーム」で変わってしまうのだろうか!? という、とにかく続きが気になり、1巻の時点では謎に満ちた内容だった。

 まず、この「誰が一番不幸なのかを決める」という設定も面白い上に、3人のキャラクターもいい。

 柊吾はエリートで、「成功者」のように見えるが、不幸な事件が重なり家族がいない。アッシュはイケメンで周囲の女性たちからチヤホヤされているが、ろくな職務経験もなく、いつまでも「特別な人間になりたい(なれるはず)」という10代の頃の願望を捨てきれないでいる。そして「人生大失敗しているっていう現実」に、気づいている。たろは、ブラック企業に勤めている平凡な男性。優しく明るく、前向きだが、「自分には何もない」と感じている。たとえ柊吾のように頭が良くても、アッシュのように顔が良くても、自分にはそれを活用できる「器(ウツワ)がない」と思っているのだ。

 この3人にはマンガの登場人物らしい「個性」があるにもかかわらず、なぜか親近感を持てる。読者は3人の内、誰か一人には必ず自分との共通点を見つけることができるのではないだろうか。この「親近感」が、水城先生の作品が面白い理由の一つかもしれない。3人の生活や心情には、フィクションの世界とは思えないリアリティがあるのだ。

 さて、2巻は2017年の4月に発売するそうだ。それまで待てるだろうか。……楽しみだなぁ。

文=雨野裾