リスクを恐れず新たな販路に可能性を見出した出版社の挑戦【インタビュー】

ビジネス

2017/1/13

 本が売れない時代である。全国出版協会・出版科学研究所の調べでは、書籍や雑誌すべてを含めた出版物の販売額は、1996年を境にして減少し続けているという。一般の読者からも「出版不況」といわれる昨今、出版各社は苦境を脱するべくさまざまな施策を試みている。

 文字を生業とする出版社が、ネットに活路を見出しているのはその一例である。元々、積み重ねてきた実績やノウハウを活かすべく、雑誌から派生して独自のコンテンツを提供するニュースサイトも当たり前の存在となった。そして一方では、従来の市場で新たな販路に可能性を見出した出版社もある。

 社会の“深層”へ斬り込む雑誌『裏モノJAPAN』や書籍などを手がける鉄人社は、昨年末に「鉄人文庫」シリーズをスタートさせた。第1弾として『爆笑テストの(珍)解答500連発!!』『テレビでやってた人気マジックのタネぜんぶバラします』『知らなきゃよかった! 本当は怖い雑学』の3冊を刊行。今後も定期的に新作を投入する予定だ。

 同シリーズの担当者である、鉄人社の編集者・平林和史さんは「今の時代にふさわしいのではないかと思った」とシリーズ創設のいきさつを語る。

平林和史さん(以下、平林)「僕は元々、一般書籍を担当していました。いや正確には、文庫と並行して今も一般書籍の編集をやっているので、担当しています、かな。ただ、そのなかでどこか窮屈な気持ちに駆られていたんです。単行本は1000円台になるので、どうしても価格が高いイメージもある。実際、読者としての自分を振り返ると、読みたいモノというのは古本や文庫化されたモノを手にする機会も多く、それならば一般の読者はもっとシビアに考えているのではないかと。だから、もっと手軽に面白いネタを届けたいという思いから文庫本のシリーズを立ち上げようと考えました」

 2016年末に行われたインタビューの時点では、刊行から2週間ほど。売上げの手応えとしては「及第点には達したかなという印象」と話す平林さんだが、企画を実現するまでは社内での調整に「苦労しました」と明かす。

平林「新たな販路を開拓するのは、まさしく“冒険”でした。初めに社内で企画を提案してから、刊行するまでは6ヶ月ほどかかりましたね。ただ、文庫本のノウハウは自分たちにはなく、知人である他社の文庫本担当者へ価格設定や新規参入にあたるノウハウを色々と学びに行きました」

 第1弾を3冊同時で刊行したのも「知人の文庫本担当者からのアドバイスによる部分が大きかった」と平林さんは語る。スタートとして「存在感を示す」のがねらいだったというが、その背景には、書店の本棚の熾烈な“争奪戦”が垣間見える。

平林「現状、書店の本棚に『新たなスペースを設けてもらう』というのは非常に困難です。文庫本の棚をイメージしてもらうと分かりますが、老舗の出版社からの作品が多くを占めているなかでは、中小出版社の新規参入は厳しい。そのため、社内では当然ながら『本当に売れるのか』『書店が取り引きしてくれるのか』という慎重論もあり、何度かの企画会議の末にようやくゴーサインが出ました」

 平林さんの話によれば、鉄人社の場合、単行本は初版で3000~4000部の発行が相場だ。ただ、もちろん作品によってはもっと多く刷ることもある。対して、価格が半額以下となる文庫本の初版は、その倍以上を発行しなければ利益を生み出せない。幸いにも、同シリーズは出版業界における流通の核を担う“出版取次”からの後押しもあり、実現に至ったという。

 ただ、鉄人社にとっては今はまだスタートラインへ立ったばかりだ。現在の課題は「『鉄人文庫』シリーズを定着させる」ことだとする平林さんだが、今後の展望に期待を込める。

平林「現在、刊行されている3冊はこれまでに弊社が制作したコンテンツを再録したものです。ほら、文庫のクレジットを見ると、すべて『鉄人社編集部 編』となっていますよね。つまり著者は編集部で、いわゆる作家さんやライターさんの作品ではないんです。ただ、文庫本には他に『著者のある作品を文庫化する』『独自に書き下ろす』『他社で出版された著作を文庫化する』という方法もあります。じつは過去に、弊社で制作したモノが他社で文庫化され、大ヒットを記録して歯がゆさを味わったこともあるんです。作り手として自分たちの名前を残せないのは悔しかったので、その逆パターンもやってみたいという思いがあります。そのためにまずは、書店にある文庫本の棚に『鉄人社』の名前を根付かせられるよう展開していきたいです」

 本が売れない時代であり「出版不況」と叫ばれるものの、全国出版協会・出版科学研究所によれば、2015年における出版業界の市場規模は1兆5220億円にものぼるという。販売額の低迷に比例して、書店の数も減少傾向にあるが希望の光がないわけではない。当たり前のように“売れる”時代が過ぎ去った今、新たな可能性に飛び込む“勇気”と、どのように存在感を示すかという“アイデア”がより重要視されるようになってきたということだろう。

文=カネコシュウヘイ