映像の魔術師・ティム・バートン史上、最も奇妙! 原作『ミス・ペレグリン』の読みどころ

映画

公開日:2017/1/20


『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(上・下)』(ランサム・リグズ :著、金原瑞人、 大谷真弓:訳/潮出版社)

 来る2月にティム・バートンの新作映画『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』が公開される。ポスターに踊る「ティム・バートン史上、最も奇妙」のコピーに、早くもワクワクしているファンも多いことだろう。なんたってティムといえば、ちょっと不思議なキャラがいろいろ出てくる奇妙なダーク・ファンタジーが十八番。どうやらこの『ミス・ペレグリン』のサイトや予告を見たところでは、キャラの不思議さは抜群だし、きっちり細部まで作り込まれた奇妙な世界の完成度にも期待大だ!

 原作は『Miss Peregrine’s Home for Peculiar Children』という全米で300万部を突破した大ベストセラー。日本では2013年に東京創元社から『ハヤブサが守る家』として単行本で出版されたが、このほど映画公開に先駆けて『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(上・下)』(ランサム・リグズ :著、金原瑞人、 大谷真弓:訳/潮出版社)として文庫化された。一足先にティム・バートンになったつもりで(「どう撮るか」とか、考えたりしながら)原作を読むのも、今だからできる醍醐味かもしれない。

 物語の主人公はフロリダに住む15歳のジェイコブ。孤独な彼のよき理解者は、ナチスから逃れ、祖国ポーランドから12歳で単身英国の孤児院に引き取られて激動の時代を生き延びたという祖父だった。幼いジェイコブに繰り返し祖父が語ってくれたお伽話は、さまざまな冒険やおそろしい怪物、不思議な写真と共に語られる魔法の孤児院の話。それは大変な時代を生き抜いた祖父の真実をお伽話風に変えたものだった…はずだが、突然の祖父の死(何者かに惨殺される)から別の意味を持ち始める。死に際に間に合ったジェイコブは「島へ行け。鳥を見つけろ」と祖父と約束をかわすが、同時に祖父が話していた「怪物」の姿を見てしまうのだ。

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 「おじいちゃんは怪物に殺された!」いくらジェイコブが訴えても周囲はショックで心を病んだと戸惑うばかり。だがある日、祖父宛の孤児院からの手紙がみつかったことをきっかけに、ジェイコブは祖父との約束を果たしにウェールズの小さな島に行くことにする。

 手紙は15年前の消印なのに、祖父の過ごしたはずの孤児院は第二次大戦のナチスの空爆ですっかり廃墟になっていた。混乱するジェイコブの前に突如現れた不思議な少女。彼女を追ったジェイコブが見たのは、祖父が語ってくれたお伽話の通りの魔法の孤児院とそこに生きる奇妙な子供たち。それは祖父がかつて写真でみせてくれた、ミス・ペレグリンに守られて“同じ時間”を生きる子供たちなのだった。

 彼らは一体何者なのか、なぜ“同じ時間”が繰り返されるのか…そんな謎解きはぜひ本で楽しんでいただくとして、個性的なキャラクターたちの魅力に注目だ。空中浮遊する少女、透明人間、後頭部にもうひとつの口を持つ少女。未来が読めたり、怪力の持ち主だったり、手から炎を出したりと、特殊能力にあふれたたくさんの子供たちが登場する。面白いのは本の随所にトリック風のアンティーク写真が挿入されていること。写真から漂う奇妙なリアリティは、事実なのかフィクションなのか、読む者を煙に巻くようだ。

 実はこの物語、こうしたアンティーク写真から着想が生まれたらしく、さすが映像出身の作者ならではのいたずら心というべきか。その世界にインスピレーションをうけ、さらに映像の魔術師であるティム・バートンが撮るというのだから、こんなに愉しみなことはない。本に映画にこの冬はどっぷりハマることになりそうだ。

 

文=荒井理恵