希望、絶望、停滞、衰退、サバイバル…そんな言葉にはもう飽きた。“消耗品”となる男たち。村上龍的現実との付き合い方

暮らし

2017/1/23


『星に願いを、いつでも夢を』(村上龍/ベストセラーズ)

 いじめ、格差社会、若者の貧困、ブラック企業…今の日本の社会は私たちの心を蝕む問題が山積している。一流の大学を卒業して一流の会社に入っても、将来の絶対的な保証 があるわけではない。いわゆる「いい時代だった」といわれた頃やバブルの熱狂を知らずに育ってきた若者たちは、自分たちがめざすべき姿を思い描くことができず、保守的で内向きになってしまいがちだというが、無理もないことなのかもしれない。

 『星に願いを、いつでも夢を』(村上龍/ベストセラーズ)は、そんな停滞した社会を、モノローグをつぶやくように静かに、かつ鋭くバッサリと斬る。著者の村上龍氏が1980年代から続けているエッセイ「すべての男は消耗品である。」シリーズの15作目だ。過去のシリーズでは、女のこと、SEXのこと、音楽や映画などで著者の興味が深かったキューバのことなどをテーマとし、ここ数年は政治や大手既成メディアに対する批判を書いてきた。

 村上氏はデビュー当時から「庭にウグイスが来た」みたいな日常的エッセイは書かないようにしようと思ってきたが、本書ではメディア批判をせず、あとがきも含めて20のエッセイの中で、車や酒、音楽、健康などの身近なことを主なテーマとした。その筆致は齢64となる初老作家の枯れた達観の境地とはほど遠く、タイトルとは逆説的な鋭敏さと良い意味でのパフォーマンスとしてのぶっきらぼうさが特徴の“村上龍節”が展開される。

 コンビニでビールのロング缶を買うか、それとも弁当を買うかで迷うような経済状況の人間が、どこで異性と出会えばいいのだろうか。たとえ運良く出会えたとしても、どういったデートをすればいいのだろうか。

 著者自身、自らの貧しかった時代を振り返り、幸福だったとは思わないが、「自分はこれから将来的に別の人生を生きるかもしれない」という思いをもつことができ、「別の人生の可能性」をイメージすることができたという。それにくらべると今は、貧困という現実が、強固で、閉鎖的で、可塑性がなく、崩れようのない壁のように立ちはだかっていて、“別の人生”の可能性を考える余地などまるでない。繰り返される毎日のその先に光が見えないのである。ブラック企業から抜け出せずにいる若者が 「あと2時間でいいので眠れますように」と願う…そんなのは七夕の願いではない。「星に願いを」バカ言うな、である。

 今、あらゆるところに「夢」という言葉が溢れているのは、人々の心から夢が消滅しそうになっているからだと村上氏は言う。ぶっきらぼうに投げかけられた答えの出ない疑問を抱えながら、私たちはこれから、どう生きていったらよいのか…答えを導き出すのは読者自身である。

文=銀 璃子