夢を追いかけ続けるのは、こんなにも苦しいのか。M-1グランプリ準優勝の漫才コンビ「ハリガネロック」解散までの告白本

芸能

2017/1/23


『芸人迷子』(ユウキロック/扶桑社)

  漫才コンビ、ハリガネロックが2014年に解散した。ボケの松口ことユウキロックが毒舌でぼやき、ツッコミの大上が軽快に突っ込むスタイル。「第4回爆笑オンエアバトル チャンピオン大会」優勝、「第1回M-1グランプリ」準優勝などの輝かしい実績を作り、数多の人気芸人が影響を受けた。突然の解散に驚き、ショックを受けたファンは多いだろう。

 当事者であるコンビの片割れ、ユウキロックが解散の真相を赤裸々に綴ったのが『芸人迷子』(ユウキロック/扶桑社)だ。2014年から2016年まで有料メールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』で連載していた「芸人迷子~終わってる、いや終わってない~」を再構成し、大幅に加筆修正して出版された。序盤からユウキロックの漫才への愛、コンビへの想いが痛いほどに感じられ、どんどん読み進めるのが辛くなっていく。それにもかかわらず 、ページをめくる手を止められない。本書は、そんな不思議な引力を持っている。

 「2005年。俺はこの年に漫才を辞めるべきだった。」かつての人気漫才師の告白は、そんな文章から始まる。一時は準優勝にまで登り つめたM-1グランプリ。2005年、その第5回大会で、ハリガネロックはまさかの準決勝敗退をする 。だが、ユウキロックを本当に打ちのめしたのはその結果ではなかった。以前は漫才への真摯な姿勢が感じられず、「腐っている」と評価していた後輩芸人コンビ、ブラックマヨネーズが、自分が理想としていた“主義と主義がぶつかり合う”漫才を行ったこと。その事実に、ユウキロックは漫才への自信を失ってしまう。

 “主義と主義がぶつかり合う”漫才を実現する上で鍵となるのが、相方である大上の存在だ。先に家庭を持ち、守るべきものを手に入れた大上との間に漫才への想いの温度差を感じながらも、ユウキロックは相方からの呼びかけを待ち続ける。どんなネタをやりたいのか、どんなお笑いが好きなのか。互いの意見をぶつけ合い、理想の漫才を目指して再出発できるのではないかと希望を抱きながら。だが結局、ユウキロックが望むような呼びかけはなく、ハリガネロックは解散する。本書を読んでいるとユウキロックの気持ちに感情移入し、アクションを起こさない大上に憤りを感じそうになる。だが、当時大上が抱いていた想いは、彼自身にしかわからないのだ。

 ユウキロックは、誰よりも漫才を愛し、才能に恵まれながらもコンビ解散という道を選んだ。本書にはケンドーコバヤシや陣内智則など、かつてハリガネロックが肩を並べていた芸人たちも登場し、お笑いに詳しくない人にも芸人の世界の明暗がありありと感じられる内容となっている。ハリガネロックの栄光時代を知っている人や、夢を一度でも追った経験がある人の胸は、どうしようもないほど痛むことだろう。

 救いとなるのは、本書のラストでユウキロックが前を向いていることだ。愛していたものを手放すことは、“逃げ”じゃない。その証拠に、ユウキロックは新たな目標に向けて歩き出している。ぜひ本書を読んで、彼の苦悩や決断を自らの目で確かめてほしい。

 
文=佐藤結衣