顧客はどこへ流れているのか? 取材件数1万2000店!「ネオ大衆酒場」「熟成肉」…15年間トレンドを言い当ててきた名編集長が語る、これからの飲食ビジネスとは?

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公開日:2017/1/24


『イートグッド-価値を売って儲けなさい-』(佐藤こうぞう/トランスワールドジャパン)

 大手外食チェーンのワンオペ問題やブラックバイトの実態などが、SNSを通じて公に晒される昨今。同時に、食の安全や健康への問題意識も、ここ数年で随分と高まり続けている。飲食業界をリードしているのは、もはや大手外食メーカーではない。単価が安いだけで飛びつくような時代は、とっくに終わっている。では、顧客はどこへ流れたのか。一方、繁盛している店は何を信条としているのか。その答えともいえる最新飲食マーケットについて書かれているのが『イートグッド-価値を売って儲けなさい-』(佐藤こうぞう/トランスワールドジャパン)である。

 さて、タイトルの“イートグッド”とは何を表すのか。発案は都内で繁盛店を複数営む、株式会社エピエリの松浦夫妻だそうだ。著者は、エピエリのホームページの文章に出会ったとき「全身に電流が走ったのを覚えて」いるとのこと。その文章を引用している。

エピエリは今、EAT GOOD(良いを食べる)を考えはじめました。EAT GOODの「良い」とは、有機野菜だとか無添加だとか、そういったことではありません。畑からパントリーへ、パントリーからテーブルへ、テーブルからお客さんの口へ――、そのつながりの中にある、お互いへの愛情、思いやり、リスペクト、そしてありがとうの気持ちを大切につくられたもの。それを考え、あつかい、調理し、食べてもらう。いただく。それがエピエリの考えるEAT GOOD(良いを食べる)です

“イートグッド”とは「飲食店の“価値”をあげる理念」であり、今や繁盛店の条件でもあるのだ。これを踏まえ、著者は言及する。

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いま「イートグッド」時代を迎え、お客さんの意識は、価格や皿の上の美味しさから、食材の背景へと向かい出しています。生産者と食材の大事さを共有し、それを飲食店を通じてお客様に真面目に美味しく、楽しく提供しようというコンセプトの店がじわじわと増えつつあります。そんな店が点から線へ、面へと広がり、外食のあり方を変え、時代を動かす日が来るに違いありません。

 まさに今、食に対して何を大切にするかの価値観が、大変化を遂げている最中なのだ。

 著者は、長年の記者・編集者生活を経て、2000年には飲食スタイルマガジンを創刊。2004年にはフードビジネスWEBサイト“フードスタジアム”を立ち上げ、業界トップのWEBニュースの編集長となった。取材件数は1万2000店、ここ十数年の業界の栄枯盛衰をつぶさに見てきた人物である。本章が始まる前ページには、著者の仕事における3つの信条が、そして最終章の「こうぞうのつぶやき」として32に及ぶ独自の切り口に至るまで、飲食ビジネスで成功を志す経営者への指針の言葉で溢れている。

 このように、本書は飲食業界のビジネス本なのだが、年代を追いながら、飲食トレンドの移り変わりを解説しているので、自分の“外食遍歴”を辿りつつ読み進めていくのもオススメだ。更には、マーケット構造、業態トレンドの予測など、誰しも知っておいて損はない項目が満載である。

 巻末には「接待で使える最新飲食店情報イエローページ」付き。編集長厳選の都内の旬の店の紹介だ。最新の食トレンドが味わえる場所として、また飲食業界で働く人には東京でのリサーチの対象店として、それぞれ活用できる。

 移り変わりの早い飲食マーケットで、繁盛店はいかに冷静にマーケティングを行い、緻密な計画のもと、展開しているのか。著者の鋭い食トレンドの分析・考察により、飲食店の人々の熱い思いまでもがダイレクトに伝わってくる一冊である。

 2017年、“イートグッド”の姿勢は、私たちの食の流通や生活に、どれだけの影響を与えていくのか。ますます目が離せない。

文=小林みさえ