綾辻行人『奇面館の殺人』 執事と萌えキャラは不可欠要素

更新日:2012/5/21

 『深泥丘奇談』の文庫化、『殺人鬼─逆襲篇』と『時計館の殺人』の改訂再文庫化、『Another』のアニメ化・映画化……と、綾辻行人をめぐるさまざまな動きが賑やかになっている中、その目玉にあたるのが、「館シリーズ」の最新作『奇面館の殺人』(講談社)の刊行である。

 「ミステリを読み慣れている人がこの仕掛けに驚いてくれるのかどうか、ちょっとどきどきしているところです」と綾辻は語る。
本格ミステリの旗手というイメージが強い彼だが、本書のような本格度の高い作品は久しぶりだという。綾辻の中には〈広義の本格〉と〈狭義の本格〉の基準があって、『奇面館の殺人』は、しばらく書いていなかった〈狭義の本格〉への挑戦にあたる。

 「僕の中では、初期のエラリー・クイーン型の、〈読者への挑戦〉が入るような〈狭義の本格〉の基準はもっと厳しいんです。その尺度だとこの作品も甘いという話になるんだけど、そこまで厳しいものを今書こうとは思えない。でもまあ、今回は自分なりに直球の本格を書いてみたつもりです。
 『迷路館の殺人』のノリというか、怪奇趣味やゴシック趣味を抑えたところで、単純に面白いパズラーが書けないかな、という狙いもありました。伏線と事件と推理を取ったらほとんど何もない小説だし(笑)、これはやっぱり〈狭義の本格〉と言えるんじゃないでしょうか」

 故意に似たような印象のキャラクターばかりが出てくるこの作品にあって、異彩を放つキャラクターが美青年の執事・鬼丸光秀と、臨時雇いのメイド・新月瞳子だ。

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 「普通に書くと登場人物が全員中年男で、想像するだに華がないでしょう(笑)。せめて一人は若い女の子を出して、執事は美青年にして……これは読者のためというより、書いている自分の精神衛生のためだったかも(笑)。あと、やっぱり読みやすいものを書きたいと思ったから。本格ミステリは面白くなるまでに時間がかかる、前半は我慢して読まなければいけない、みたいな定説があるじゃないですか。それをなるべく払拭したいという思いがあるので、まあいろいろと工夫するわけです」

 瞳子はなかなかの萌えキャラ設定だが、それもすべて謎解きのために不可欠なものだ。
「一から十まで“ためにする”ものでありながら、なるべくそれを不自然じゃないように見せなければならない。これだけ長くやってきても、本格ミステリは本当に難しいです」

(ダ・ヴィンチ2月号「綾辻行人インタビュー」より)