『篤姫』『江』脚本家・田渕久美子「書くのは大嫌いだった」

公開日:2012/1/17

  脚本家・田渕久美子さんの新刊『毎日が大河』(幻冬舎)は、タイトル通り、NHK大河ドラマ『江 姫たちの戦国』の脚本の執筆と同時進行で幻冬舎のWEBサイトに連載されたエッセイ。

 大河ドラマ全46話分の脚本を書きながら、小説版も書き、エッセイも書き、しかし書斎に閉じこもっているかといえば、突っ走るにはガソリンが必要とばかりにパリ、ベトナム、ロンドンと世界中を飛び回っている。

 「笑ってもらえました? よかった(笑)。私は“何にも諦めたくない”って気持ちが異常に強いんですよ。諦めきれない病って呼んでるんですけどね。何かしら思いつくと、それをどうやって実行に移すかってことしか考えられなくなるんです。ものぐさのくせに、アッと思うと、もうやっちゃってる。この極端な自分を飼いならすのに、若い時からすごく苦労してきたんです」

 これまでも脚本家として連続ドラマの依頼を途切れなく引き受けながらも「じゃあ書くことが好きかって言われたら、大嫌いでしたね」、意外な言葉で振り返る。
「脚本家としての私は、裏方仕事が多かったんですよ。前任者が別の仕事に乗り換えて、人が足りないと呼ばれる、みたいな」
 
 言うなれば、この人はピンチヒッターとして道を切り開いてきたのである。
「クランクインが1か月後に迫ってるのに脚本がない、頼むと泣きつかれたこともありましたよ。当時、娘が2か月だったんです。無理、できないと思いながらも、いや、私のところに来る以上はきっと道はあるはずと思ってしまう。癖ですね、もう。生き方の癖だと思う(苦笑)」
周りがもっとおいしい仕事、大きい仕事に乗り換えるのを見ながら「頼む」「何とかしてくれ」と時にはむちゃぶりを引き受けてきたピンチヒッターは、「自分は愛ある選択をしてきた、そう思わなかったら、とってもやってられません!」と笑う。
 
「あるプロデューサーと、彼がデビューする初仕事は必ず一緒にやろうねって約束したから、大きな仕事を断ったりもしましたよ。自分でもバカだなあと思ったけど、でもそれが今になって大きな仕事につながったりして、やりたいことをやれる今をつくってくれたという実感があります。書きたいものを書く力をつけるには嫌だ、無理、できないと言いながらも書き続けるしかない、人間として成熟するしかないんだってことがようやくわかってきた気がします」

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 よく笑う人だ。何でも笑い話にして乗り越えてきた人なのだと思う。この日も最後にとっておきのエピソードを披露して現場を沸かせた。
 「この間、あまりに体がツラくて、朝起きるのも面倒。こんなの珍しいと思って病院に行ったら“最後はこれしかない〟って処方されたのが男性ホルモンの塗り薬だったんですよ。おへその周りに塗るんだって。そうか、ここまで堕ちたか。こんなもの塗れって言われる私の人生なんだって思ったら、かなしいやらおかしいやら。誰にも言えないと思うと同時に、苦しんでる人がいたら教えてあげたい(笑)」

(ダ・ヴィンチ2月号「田渕久美子インタビュー」より)