ダ・ヴィンチニュース「アニメ部」

現実とリンクする『虐殺器官』 テロとアメリカのリアル 【アニメ映画が面白い!第5回】

■ テロとアメリカ 現実とリンクする『虐殺器官』

 アニメーション制作会社の突然の経営破たんから制作中断、新たなスタジオで再スタートを切った劇場アニメ『虐殺器官』が遂に完成した。当初公開予定から約1年3ヵ月遅れて、2月3日に全国公開する。
 新設のジェノスタジオが引き継いだ制作は、待った甲斐があったと思わせるに十分な仕上がりだ。原作者・伊藤計劃の難解とも見える言葉とエッセンスを見事に映像に変換し、映像ならではの説得力を与える。R15+というレーティングも、小説のリアリティある再現のうえにある。

 しかし、2017年のいま、『虐殺器官』のリアリティはむしろ現実社会のほうに密接につながった。当初予定からの公開延期は不幸な事件ではあるが、いままさに進んでいる社会状況とのシンクロは、偶然とは思えない絶妙なタイミングとなった。この時を狙っていたかのようにすら感じさせる。
 現実で起きているのは、誰もの予想を覆した米国のトランプ大統領登場と、彼が世界中にばらまく混乱である。トランプ大統領の誕生の出発点を辿ると、2001年のアメリカで起きた同時多発テロ「9.11」に行き着く。そこからテロ関連国家からの入国拒否、移民制限、貿易制限といった極端な一国平和主義が生まれた。
 『虐殺器官』の物語もアメリカ同時多発テロから始まる。作品の主題は、「アメリカ」と「テロ」、新興国で頻発する「内戦」、内戦が引き起こす「虐殺」、そして大衆に語りかける「言語」=「虐殺の文法」に連なっていく。

 『虐殺器官』の世界では、テロに脅えるアメリカが生み出しものの正体は、映画の後半で明かされる。真実に直面した主人公・クラヴィス大尉のとった行動が本作の最大の見どころになる。
 派手なアクションに加えて、作中で重大な役割を果たすSF的なギミック「虐殺の文法」。それは絵空事であるからエンタテインメントとして楽しめる。
 しかし、2017年にこれを観る僕らは、作品をエンタテイメントとして消費するだけでは終わらない。鑑賞したあとに問わずにはいられない。

「では現実は? 」 

 僕らは知らない間に「虐殺の文法」に汚染されているのではないか。現実との重層構造に気づいた時に、『虐殺器官』はその存在感が何倍にも大きくなる。
2009年に早世した才能豊かなSF作家・伊藤計劃は、まるで10年前に現在を予測していたのでは? 
『虐殺器官』は、そんな夢想に捉われる映画である。

虐殺器官

【虐殺器官 公式サイト】
http://project-itoh.com/

<数土直志>
ジャーナリスト。アニメーション関する取材・執筆、アニメーションビジネスの調査・研究をする。「デジタルコンテンツ白書」、「アニメ産業レポート」執筆など。2002年に情報サイト「アニメ!アニメ!」、その後「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ編集長を務める。2012年に運営サイトを(株)イードに譲渡。

(C)Project Itoh / GENOCIDAL ORGAN



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