「数学ってなんの役に立つの?」と疑問に思う人へ…一見関係なさそうな問題も、数学で考えると答えが見えてくる!?

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2017/2/1

『スウガクって、なんの役に立ちますか?』(杉原厚吉/誠文堂新光社)

 小学生の頃、担任の教師に「ゼロは何も無いのに、どうしてマイナスがあるの?」と質問したのが、自分にとって算数ではなく数学への興味のピークだったように思う。教師が「自分で調べてごらん」と答えたのは教育方法として間違ってはいなかったものの、子供向けの関連書籍で7世紀のインド人の数学者ブラーマグプタが数字の「0」の概念を確立したと知り、さらにそれ以前の歴史においては紀元前のバビロニアに「記号としてのゼロ」が存在していたことや、古代エジプトにも概念はあったが表す記号は作られなかったことなど、物語としての面白さに惹かれ、中学生になると数学は苦手な科目になってしまった。

 そして、数学の成績が悪かったのを『スウガクって、なんの役に立ちますか?』(杉原厚吉/誠文堂新光社)という本書のタイトルのままの言い訳をして現在に至っている。本書は小・中高生向けの月刊誌『子供の科学』に連載されていた記事をもとに、身近な生活の中で「役に立つ」ことに重点を置いて大人向けに書き換えたものだそうで、私のように数学に挫折した者にも得になることがありそうだと思い読んでみた。

 情報は分かりやすく簡潔であることが良さそうだが、スウガク的にはある程度の余計な情報を「わざと挿入することでミスを減らす」ことができるという。例えば、初めての場所で待ち合わせをする場合、場所を指定した人が「駅の西口の改札を出て、左の階段を降りたところ」と相手に伝えれば充分だと考えたとして、相手が東口と間違える可能性があり、階段が左右両方にあったらこれもまた間違えるかもしれないため、そこに「パン屋さんがあります」といった余分な情報も入れておくことで、パン屋が無ければ「間違えた!」と相手が気づく可能性が高くなるという具合だ。

 なんだそんなこと、どこがスウガクなのかと思ったが、この仕組みは「誤り検出符号」や「誤り訂正符号」と呼ばれ、本書の奥付にもある「ISBN番号」の最後の数値は「数値の誤り検出のために付け加えられている数値(チェックデジット)」なのだとのことで、この「情報の冗長性」こそがスウガクの応用という次第。

 他にも、津波で多数の犠牲者を出した東日本大震災以来、海の近くにいれば急いで避難することを意識するようになった人も多いと思うが、建物から外に出るといった限られた空間においては、スウガク的には「あわてず、落ちついて、普通に歩いて避難」するのが良いという。ある時刻から次の時刻にかけて人が移動するような図表を「セルオートマトン」と呼び、前の人との距離が空いていれば前の人が移動していなくなった場所には次の人が進めるのが、距離を詰めていると前の人が移動する前に次の人が追いついてしまい、その後も珠々つなぎとなって移動速度が遅くなることがシミュレーションで分かる。これなど、自動車を運転するさいに車間距離を空けるのは追突事故の防止だけではなく、渋滞を起こさないようにするのに応用できそうだ。

 宝くじについてのスウガク的な考え方は、当たる確率の上げ方かと思ったら、さにあらず。宝くじを買うのに支払う金額のうちいくらが戻ってくるかは、スバリ「期待値」と呼ばれる数値で、払戻率が50%として1枚の金額が300円なら、当せん金の期待値は150円である。しかし、1等の当せん者に多くのお金が支払われる仕組み上、当せんくじの数は非常に少なくなるため、この期待値はさらに下がることになる。だから著者は、宝くじを買う行為を「持っているお金を半分に減らす」ことであり、「お金持ちが公共事業に寄付するもの」だと断じている。ううむ、スウガクは論理的な思考の役に立つけれど、夢は見させてくれないんですね。

文=清水銀嶺