妻夫木聡が週刊誌記者に! 満島ひかりが育児放棄の疑いで逮捕される妹を演じる! 映像化不可能だった問題作『愚行録』がついに公開!

映画

2017/2/6


『愚行録』(貫井徳郎/東京創元社)

 意図せず誰かを傷つけていたりする経験は、誰にでもあるもの。ましてやSNS時代は、何気ない投稿が誰かの妬みをかうこともあれば、その逆もある。知らぬ間にあなたの周りにもはびこっているかもしれない無意識の中の「悪意」。もしそれが誰かの中で決壊したら…まもなく公開される『愚行録』(2月18日より全国ロードショー)は、そんな誰にでも起こりうる恐怖に戦慄する作品だ。

 物語の発端は、エリートサラリーマンの夫と美しい妻、可愛い一人娘という「理想的な家族」を襲った恐ろしい事件。何者かが自宅に侵入し、一家を惨殺、犯人はシャワーをあびて痕跡を消し逃走したのだった。未解決のまま1年が過ぎた頃、再び事件の真相に迫ろうと週刊誌記者の田中(妻夫木聡)が被害者夫婦の知人たちに話を聞きはじめる。そこで彼らの口から語られたのは、世間のイメージとはまるで違う夫婦の姿――自分の利益のために相手を利用する男と、相手より優位に立とうと本能的にマウントする女だった。実は妹(満島ひかり)が育児放棄の疑いで逮捕されるという事情を抱えながらも、田中はとりつかれたように事件の闇に挑み続ける。そして明かされる驚きの真相は、予期せぬ悪意の恐ろしさをグサリと突きつけるものだった…。

 主演の妻夫木や満島に加え、殺された被害者に小出恵介と松本若菜、証言者に臼田あさ美や市川由衣ほか演技派の人気俳優たちが多数出演するのも注目だ。興味深いのは彼らがタテマエの人間関係ではなく、その根底にある「人間の本性」をさらけ出していることだろう。一流企業や名門大学の高慢なエリート意識を拠り所にして、自分から誘った女をあっさり捨てたり、マウントの応酬をしたり、相手を利用し陥れたり…数々の証言から浮かび上がる行動は身もふたもない。とはいえ悪いのは被害者夫婦だけではなく、証言者もお互い様だ。あくまで外面は小綺麗にスマートに、だが内側には激しい上昇志向と羨望や嫉妬、見栄が渦巻く彼らの姿は、ひたすら「愚か」でしかない。

 だが、そんな彼らをあなたは簡単に嗤うことができるだろうか。彼らの住む世界は確かに特殊ではあるが、「弱い者を犠牲にして自ら優位に立つ」という愚行の本質は、程度の差こそあれ覚えがありはしないだろうか。物語の凶行がそうした愚行のしっぺ返しであるとするならば、決して他人事では済まされない。

 原作は第135回の直木賞候補にもなった人気作家・貫井徳郎のまさにイヤミスというべき同名ミステリー。全編取材者へのインタビューと田中の妹の独白のみという独特の構造もあり長く映像化困難といわれてきたが、今回の映画化は著者自身が「思った以上に原作に忠実でびっくりした」とコメントするほどの出来だという。実際、田中と証言者、田中と妹などの「対話」をベースにしながら、巧みに現在と過去を織り交ぜて進む展開は、原作を知る者なら「なるほどこうきたか」と膝をうつはず。さらに精神科医や弁護士など原作にはない人物たちの存在が物語のリアリティを増す。

 なお、監督は本作が監督デビュー作となる石川慶氏。ポーランド国立映画大学で学んだ縁か撮影監督にポーランド人を招き、どこか日本的な湿度とは別の重厚な映像美で、『愚行録』という語感にぴったりの寓話性をも付加する。

 正直言って、決して後味のいい作品とは言い難い。もやもやとした感情を抱えたまま、現実に放り出されてしまう人も多いだろう。一体、あなたの中のどんな感情が呼びおこされてしまうのか。ぜひその正体を確かめてみてほしい。

文=荒井理恵


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