「どうすれば部下をうまく指導できますか?」「営業成績を上げたいのに上がらない!」―その悩みにピッタリな映画とは?

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公開日:2017/2/9

『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』(宇多丸/新潮社

 先日、ウディ・アレン監督の映画『マジック・イン・ムーンライト』を観て、ぶっ飛んだ。あまりにも微笑ましく爽快なハッピーエンドで、私は観終わってからしばらくのあいだ、妙に晴ればれとした気分だった。仕事続きで心身ともにくたびれていた分、余計にそう感じたのかもしれない。

 ラッパーであり、ラジオパーソナリティとしても活躍中のライムスター宇多丸氏が、人生に悩む人々の相談を募集し、オススメの映画を“処方”する書籍『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』(宇多丸/新潮社)。『月刊コミック@バンチ』で連載している同名企画をまとめた本書では、日々の不平不満や世の中に対する疑問、こうなりたいという欲求などを切り口にしながら、適切な映画を紹介していく。

「どうすれば部下をうまく指導できますか?」や「なんでヤンキーがモテるんだ!」など、収録されている相談は40件以上。ときに厳しく人間の心理を突き、またときには悩める人の傍らにそっと寄り添うような、バラエティに富んだ回答は読んでいて楽しい。宇多丸氏のユニークかつ論理的な考察は、本書のおもしろさのひとつだ。

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 それでは、相談者の質問とそれに対する宇多丸氏の名回答、およびそこで採り上げられた映画を、3つ紹介したい。

「営業成績を上げたいのに上がらない!」

 株式仲買人の鮮やかな話術が披露されるのは、レオナルド・ディカプリオ主演の映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。最終的に証券詐欺で主人公が捕まってしまう、実話がベースの物語のため、まんま参考にしろというわけにはいかない、と宇多丸氏は前置きしている。それでも「需要というのは、でっちあげてでも“こちら側が作り出す”ものなのだ」という主人公の話術は、相談者のような営業マンなら憧れる能力だろう、というわけ。モラルの問題は度外視して、だが……。

「スター・ウォーズを完璧に楽しみたい!」

 この質問は、同シリーズのエピソード7『スター・ウォーズ フォースの覚醒』公開(2015年12月)の半月前のもの(ちなみに2017年2月現在、同年12月に最新作となるエピソード8『最後のジェダイ』の公開が予定されている)。ここでは『フォースの覚醒』公開前の予習に役立つ作品をピックアップ。主人公のひとりに抜擢された若手俳優、ジョン・ボイエガの初主演映画『アタック・ザ・ブロック』や、『フォースの覚醒』の監督、J・J・エイブラムスの『スター・トレック』など、3作品+書籍1冊を挙げている。そのほか、補足として熱狂的なファンの心理について言及したうえで、2009年公開のコメディ映画『ファンボーイズ』を紹介しているのも興味深い。

「心の底から燃えてみたいんです!」

 前半から中盤にかけて『スキャナーズ』『スポンティニアス・コンバッション 人体自然発火』『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』などなど、人が燃え上がる描写が印象的な作品について宇多丸氏が熱くアツく語り、笑いを誘う。後半では「ベタ中のベタ」と断りつつ『ロッキー』、さらに近年燃えたという、三池崇史監督のリメイク版『十三人の刺客』を名シーンとともに紹介。おまけとして、テレビアニメ『キルラキル』も挙げ、アニメ表現としての「熱血」=「燃え」について言及するあたりに、宇多丸氏の引き出しの多さが垣間見える。

 9歳のときに『スター・ウォーズ』を観て以来の“ムービーウォッチメン”で、自ら認めるほどの「オススメしたがり体質」でもある宇多丸氏。映画に関するラジオ番組の影響もあってか、人からオススメの映画を尋ねられることも多いという。そんなとき、宇多丸氏は「相手が本当に望んでいるものはなんなのか」を問診で探り当てる。そして見事に相談者のツボを突く。これぞまさしくカウンセラーのなせる業である。「最近なんだか気分が晴れない」「感情をぶつける先が見つからない」――それなら、試しに映画カウンセリングを受診してみては?

文=上原純(Office Ti+)