宝石に宿るせつない謎…美しき敏腕宝石商×迂闊な正義の味方が解き明かすジュエル・ミステリーの第4弾がついに発売

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12


『宝石商リチャード氏の謎鑑定(集英社オレンジ文庫)』(辻村七子:著、雪広うたこ:イラスト/集英社)

宝石の輝きは、誰かの人生を物語る。喜びも悲しみも愛おしさも憎しみも、宝石は持ち主のすべての思いを吸い込むことで、ますます美しく輝き始める。宝石の真贋や価格だけではなく、そこに込められた人の思いや歴史まで解き明かす宝石商がいるとしたら、多くの顧客が彼の元に集まるのは当然のことだろう。金髪に青い目、絶世の美貌と流暢な日本語。年齢不詳・正体不明の宝石商が織りなすジュエル・ミステリーが今、大きな話題を集めている。

『宝石商リチャード氏の謎鑑定(集英社オレンジ文庫)』(辻村七子:著、雪広うたこ:イラスト/集英社)は、美しい敏腕宝石商×正義感空回りの大学生の名コンビによるミステリーシリーズ。このたび第4巻が発売されるこの作品は10代、20代の女性を中心に絶大な支持を得ている大人気シリーズだ。愛らしい登場人物と、まばゆく輝く宝石。宝石に宿る謎が鮮やかに解き明かされた時、読者の心までもが揺すぶられてしまう。

主人公は、公務員志望の堅実な大学生・中田正義。正義感が人一倍強い彼は、ある日、酔っ払いに絡まれていた、とてつもなく美しい外国人の男を救い出す。その人の名は、リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン。国内外に数多の顧客をもち、スーツケース一つで世界を飛び回る敏腕宝石商だ。正義は彼に、祖母が死ぬまで隠し持っていたいわくつきの指輪の鑑定を依頼する。その宝石に込められた祖母の過去、後悔、そして、真実…。それをきっかけに、正義はリチャードの店「エトランジェ」でアルバイトとして働くことになる。リチャードの鑑定眼を頼って、日々訪れるのは、厄介な顧客ばかり。ルビーの鑑定を依頼してくるマリッジ・ブルーの女性。死んだバレリーナの呪いがかかったエメラルドのネックレスに悩むバレエ団。キャッツアイを手にして来店した口の達者な小学生。結婚30周年記念の指輪のための宝石を探す夫婦。恋人と連絡がとれなくなった女子大生…。今日の宝石は何を語るのか。宝石を通して見えてくる、数々の人間模様とともに、リチャードの過去も次第に明らかになっていく。

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ダイヤモンドやルビー、サファイヤなど、名前しか聞いたことのなかった宝石たちにまつわる知識の読みごたえはもちろんのことだが、この物語の一番の魅力は、登場人物たちの愛らしさだろう。リチャードは眉目秀麗、非の打ちどころのないクールな美男子だが、甘いもの好きというのがとてつもなく可愛らしい。そんな彼のために毎日ロイヤルミルクティーととっておきのスイーツを用意する正義。正義の温かくまっすぐな人柄はシリアスになりがちな物語をいつもほっこり和ませるが、その天然さは思わぬ事件を巻き起こすこともある。片思いの女の子がいるのに、リチャードをこちらが恥ずかしくなるほど褒めまくる姿は、あらぬ誤解を招き…。上司と部下と呼ぶには微妙な関係性がもどかしくも愛らしい。

しかし、最新刊では、正義にとってかけがえのない存在だったリチャードは突然彼の前から姿を消す。新たな店主として現れたリチャードの師匠・シャウルから情報を得た正義はリチャードを追って海外へ。彼を苦しめる過去の因縁とは。正義は、彼を見つけ、救い出すことができるのだろうか。

宝石のように美しくもクールな宝石商と、宝石のような美しい関係をつなごうとする迂闊な熱血漢。彼らが解き明かす人の心の温かさにあなたも魅了されるに違いない。

文=アサトーミナミ