SMAP解散をファンはどう捉えたのか? SMAP愛にあふれた「大人のSMAP論」【著者インタビュー】

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公開日:2017/2/17

『大人のSMAP論(宝島社新書)』(速水健朗、戸部田誠、みきーる/宝島社)

 2016年の大きな芸能トピックといえば「SMAP解散」だったけど、木村拓哉や草なぎ剛は今期の連ドラに主演しているし、他のメンバーも粛々と仕事をこなしている。テレビを点ければ誰かしらは必ず見かけるので、5人一緒の姿を見られなくなったこと以外、何も変わらない気がする。でも5人が揃うことはもうないと思うと、やはり変わったような気もするし……。

 個人的な話で恐縮だが、私自身は一度もSMAPにハマったことはない。それでもこうして聞かれてもいないのに、SMAPへの思いを語ってしまうとは。彼らの存在はただ見ている人にとっても、重くて濃いものだったのか……?

 と、このように昨年夏に解散が発表されて以降、日本中で繰り広げられてきたであろう「私によるSMAP語り」の集大成とも言える『大人のSMAP論(宝島社新書)』(速水健朗、戸部田誠、みきーる/宝島社)が、2016年12月に発売された。

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『ジャニ研!: ジャニーズ文化論』の共著者で「10代の頃は少年隊ファンだった」という評論家の速水健朗さんとジャニヲタ・エバンジェリストのみきーるさん、そしてテレビウォッチャーの戸部田誠(てれびのスキマ)さんによる鼎談方式で進むが、これが「そうそう、そういえばそうだった」と言いたくなる話の連続なのだ。

「ジャニーズ全体のファン」のみきーるさんが熱っぽくSMAPの魅力を語ると、戸部田さんが「SMAPはテレビ的にどのような役割を果たしてきたか」を分析し、それを受けた速水さんが音楽やメンバー論などのお題を出しつつまとめていく。スキャンダルや事務所問題にも触れているが、全体に「SMAP愛」が漂っているのが特徴だ。

 とくにメンバーと同世代で1973年生まれの速水健朗さんがリアルタイム視聴してきたCMやドラマをあげていくくだりは、私のようにファン歴がない者が読んでも「わかる~」と頷いてしまう。逆に言えば、その時代を知っている大人だからこそ楽しめる1冊ということだろう(だからタイトルは『大人のSMAP論』で正解なのだ)。

 ただ速水さんによると、この本で書ききれなかった大事なものがあるそうだ。何なのかを本人に聞いてみると、それは「SMAPファンのリテラシーの高さ」だと答えた。

速水さん(以下、速水)「昭和のアイドルはアイドルとしての時期は短命でしたが、SMAPは30年近くアイドルを続けていました。今ではアイドルが10年スパンで活動するのは当たり前になっているけれど、おニャン子クラブですら2年半しか活動していなかったんですよね。短期的に消費するのではなく、メンバーの成長を長期的に見守ってきたのは、SMAPファンが初めてなのではないかと思います」

 速水さんいわく、とくに解散騒動におけるファンの動きは、目を見張るものがあったそうだ。スポーツ新聞などが「前マネージャーと一部メンバーによる造反劇」などと書きたてるものの、ファンはうのみにせず「そうではない」と言い続けて、SMAPの存在を支えてきた。このようにメディアが伝えきれていないことを個々のファンがSNSなどで発信する現象は、SMAP以前には見られなかった光景だと分析する。

速水「SMAPファンのリテラシーの高さは、こちらの想像をはるかに超えていました。たとえばどんなアイドルでも、デビュー当時からのコアなファンは、『ニワカ』と呼ばれるライトなファンを嫌悪しがちなものです。しかしSMAPのファンはニワカを排除したり、マウンティングをしたりすることが少なかった。またアイドルオタクが一般の人からネガティブなイメージを持たれがちなのを自覚しているのか、他者に迷惑をかけないようにふるまいながらも社会的な影響力を発揮する洗練さも、SMAPファンに見られる傾向だと気づきました」

 そんなファンたちが解散前に多数のメッセージが寄せていた東京新聞の有料広告欄「TokTok」には、解散後の現在もSMAP宛てのものが掲載されている。しかし個々人は芸能界を引退したわけではなく、活動を継続しているのだ。やはりそれでも、SMAPのアリとナシは違うものなのだろうか?

速水「『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)が終了して今後は5人で歌わなくなるけれど、ここ最近は新曲も年1回出るか出ないかのペースだったので、あまり変わらない気がするかもしれません。でもメンバーが一緒に並ぶ関係を大事にする応援の仕方が、アイドルにはあるんです。

 一般社会でも友達同士とか先輩後輩とか色々なつながりがありますが、その関係において人間は、与えられた役割を演じている部分がありますよね。役割を演じるのはむなしいことでもありますが、むなしいからこそ儚く貴重なもので、SMAPの5人の関係ってそれに近いものがあると思うんです。

 学校を卒業すると先輩と後輩の関係が終わるように、日常に当たり前のようにある関係は、ある日突然なくなります。だからこそ貴重で、失うと寂しさでいっぱいになってしまう。28年も活動してきたSMAPは多くの人にとって『日常に当たり前にいる存在』だったから、失った寂しさを強く感じるのかもしれません」

 この本の中で戸部田さんは、「SMAPの穴を埋めるには、SMAP再結成しかない」と語っている。みきーるさんもひたすら解散を惜しみ、復活を「キリストのそれ」並みに願っていると訴えるが、意外にも速水さんは「簡単には帰って来てほしくないと思っている」と明かした。

速水「これだけ社会を巻き込んで大騒ぎして解散した以上、簡単に帰って来られては困るというか。森且行の芸能界復帰とか紅白の大トリを用意しましたとか、そのレベルではナシだと思います。『誰かがイスカンダルに行って、放射能除去装置を取ってこないと地球が滅亡する』『じゃあ、あの5人に行かせるしかない』とかになればアリだと思いますが、既にもう映画で木村拓哉が行ってますし(笑)。

 CMなどの契約もありますから、現在のグループはそうそう解散できないものなんです。活動を休止したり、メンバーを入れ替えたりすることぐらいしかできないのに、その制約の中でSMAPが解散できたのは奇跡としか言いようがない。もしジャニーズ事務所が上場企業で株式を公開していたら、株主からも『待った』がかかったことでしょうし。それぐらいの奇跡を我々は見たのだから、そう簡単には復活しないでほしいと思うんですよね」

 容易には復活しないでほしいと思う者と熱烈に復活を願う者が同じ座に集うのも、「私たちのSMAP語り」にはよく見られた光景だった。しかし年が明けて以降は「去る者日々に疎し」なのか、熱はおさまりつつもある。そんなタイミングの今だからこそ、この本を片手にSMAPを振り返ってみてもいいかもしれない。

取材・文=今井順梨