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なぜあのシーンにあの本が! ?「007」ボンドガールの役名は下ネタだらけ…町山智浩の新しい映画評論が話題!

 映画にはいろんな楽しみ方がある。例えば『彼らが本気で編むときは、』(2月公開)でトランスジェンダーを演じる生田斗真の女装や、『チアダン』(3月公開)での広瀬すずのチアガール姿など、お気に入りスターの七変化に思わず息をのんだり、萌えたりするのは、映画の王道的な楽しみ方のひとつだろう。

 一方で、こんな人もいる。「映画の画面に本が映ると、何らかの意味があるはずだと気になって注目してしまう」──そう語るのは、米国在住の映画評論家、コラムニスト、ジャーナリストの町山智浩氏である。

 本書『映画と本の意外な関係!』(町山智浩/集英社インターナショナル)は、そんな町山氏のマニアックで鋭い観察眼がキラリと光る、「映画に登場する本や言葉」を切り口にした、新しいスタイルの映画評論だ。

「映画の本棚──まえがきにかえて」と題されたコラムから始まる本書。映画に登場する本棚や登場人物が読む本などに町山氏がフォーカスするコーナーで、まさに本好きな映画ファンにはたまらない情報の連続だ。筆者もこのパートを読んで大収穫を得たのだが、それが『ベルリン・天使の詩』(87年、ヴィム・ベンダース監督作品)の解説である。

 この作品は天使男性と人間女性のラブ・ストーリーとして大ヒットし、ニコラス・ケイジ主演のハリウッド版リメイク『シティ・オブ・エンジェル』(98年)の元作品にもなった。しかしリメイク版に比べると、本家は何度観ても、ラブ・ストーリーが主題とは思えない難解さを秘めている。町山氏によれば、この映画を読み解くヒントは、図書館で女性が本を読むシーンで登場する“ある言葉”だという。それが以下のモノローグだ。

「(前略)ベンヤミンの遺稿『歴史の概念について』で彼は『新しい天使』を、歴史を振り返る寓意として解釈している」

 ごく普通の映画ファンなら、登場人物でもないのにいきなり出てくる「ベンヤミン」がだれかはわからないし、文意も抽象的だし、スルーしてしまうシーンである。しかし町山氏は違う。映画に「ベンヤミンの遺稿『歴史の概念について』」という本が出た段階で、すべてを理解するのだ。

 ベンヤミンとは、ドイツ・ユダヤ人哲学者、ヴァルター・ベンヤミンのことで、大戦中、ナチスに追われ、祖国ドイツに戻れずに服毒自殺をするという非業の死を遂げた人物だ。映画には天使と人間のラブ・ストーリーと並行して、ベルリン中を放浪する老人男性(役名:ホメーロス)のシーンが幾度となく登場する。この老人こそ、ベンヤミンその人であり、この作品の本当の主人公。ベンヤミンが生まれ故郷へ帰還するというオマージュこそが『ベルリン・天使の詩』の主題であるというのが、町山氏の解説となる。

 スゴイ、これはまさに目からウロコの読み解き。これで『ベルリン・天使の詩』に登場する天使たちが、なぜ死にゆく者たちにただ寄り添うだけの、無力な存在なのかがよく理解できた。この作品に登場する天使たちは、ベンヤミンのいう新しい天使であり、「歴史を振り返る寓意」──つまり、人々の過去や体験だけを粛々と受け止める存在たちなのだ。

 本書には他にもいろんな映画作品、作家、脚本家、本、言葉、歌詞などが登場する。「007」シリーズの歴代のボンドガールや女性科学者たちの役名が、「下ネタ満載」という指摘も面白い。メグ・ライアン主演の『恋人たちの予感』(89年)では、脚本家のノーラ・エフロンに着目し、「あのね、女はみんなイクふりできるのよ」という世の男性を驚愕させたセリフが生まれた背景などを解説してくれている。

 町山氏の映画や文学への造詣の深さ、そして、映画と本や言葉との意外な関係、そのどちらにも納得の一冊だ。

文=町田光



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