「笑い」を追求する男たちの壮絶な戦い――!! お笑い芸人マンガ『万歳!-MANZAI-』がアツすぎる!

マンガ

公開日:2017/2/23

 お笑い芸人「ピース」の又吉さんが小説『火花』で芥川賞を受賞したのは記憶に新しい。

『火花』を読んで、芸人の見方が変わった方も多いのではないだろうか。「笑い」を取る芸人たちの姿は滑稽で、有名になれば華々しく、売れない時代は苦労をしている……そんな印象しかなかった私たちに、「笑いを生み出すこと」の葛藤を……「笑い」という「光」に潜む「陰」を示してくれたように思う。

『万歳!-MANZAI-』(KUJIRA/集英社)は、『火花』を彷彿とさせる。

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 昭和の大阪でお笑い芸人を目指すコンビの物語。お笑い芸人が主人公だし、ギャグマンガだろうと思いきや、まったく違っていた。

 若手芸人の主人公・哲夫(てつお)は、借金で首が回らなくなり、さらに芸人としてのプライドを傷つけられ自信を失くしたこともあり、自殺をしようとする。物語は「笑い」から遠く離れた「死」から始まるのだ。

 哲夫の幼馴染で、子どもの頃はコンビを組むと約束をしていたのだが、大人になった現在、別の相方と漫才師になってしまった「いっせー」。彼は若手として細々とテレビや舞台に出演をしているのだが、自身の現状には不満があった。

「客のしらけた顔が見える」「誰も笑ろてへん」……いっせーは子どもの頃、友人の前で披露していた漫才で経験した「笑いの弾ける瞬間」を求めていたのだが、今の自分たちに、それがなかった。このまま芸人を続ける意味はあるのかと悩んでいた。

 そんな矢先、「お笑い勝ち抜きバトル」というテレビ番組での大切な場面で、台本通りに漫才をせず、アドリブを入れたことを、相方に責められたいっせーは、芸人とは思えないような鬼気迫る表情で返す。

「芸人やったら、頭から、口から、生きた言葉を出せ!」

 芸人への道を閉ざされ、命を絶とうとまでした哲夫。そして、誰よりもお笑いを真剣に考えているいっせー。紆余曲折を経て、二人は仮のコンビとして活動することになる。が、その過程で様々な問題を起こしており、大阪の芸人界にいられない二人は、東京を目指すことに。

 本作は、私たちが「くだらね~」「バカだわ~」とか好き勝手言いながらも、笑いながら観ている漫才、コント、バラエティ番組の裏には、芸人たちの並々ならない情熱と、葛藤と、涙が存在することを教えてくれる。

 もちろんマンガなので、『火花』のように文学的で難しいお話ではなく、読んでいて暗くなるようなものでもない。悩み、葛藤する様子は、学生でも、社会人でも通じる共感だと思うし、エンターテインメント性も、笑いもあり、続きがどんどん気になる展開でもある。

 哲夫は主役らしく無鉄砲で型破りなところがあるが、漫才に対する情熱は人一倍。いっせーはクールだが「お笑い」には厳しく一途なところがある。なにより、いっせーの元相方の小林。自分に芸人の才能はないと、結局哲夫といっせーのマネージャーになる彼が、人間くさく、ある意味読者にとって一番共感できる魅力のあるキャラかもしれない。

(……個人的に、黒スーツを着てサンパチマイクの前に真剣な表情で立っている哲夫といっせーの袖イラストがものすごく好き……。戦う男!って感じが……たまらなくいい)
※袖→カバーの折り返した部分

「お笑い芸人の世界」を今までと違った視点から描いた本作。まだまだお話は続くようなので、楽しみに2巻を待ちたい。

文=雨野裾