あなたはどう生きる? 難病と闘う子供たちと犬、そして日本で初めて小児病棟にセラピー犬を受け入れた病院の真実の物語

社会

2017/3/8

『犬が来る病院』(大塚敦子/KADOKAWA)

 あなたは病院に犬がいる光景を見たらどう思いますか。不衛生だと感じるでしょうか。楽しそうだと思うでしょうか。

 犬を家族のように感じる人がいる一方で、犬は犬であると考える人、健康上の問題で動物を苦手とする人、犬が嫌いという人もいるでしょう。さまざまな人がいる中でヨーロッパのようにレストランでも交通機関でも比較的自由に犬を連れて入ることができる国もあります。しかし日本では盲導犬のような認められた犬以外は一部の限られた場所にしか入ることができません。そして、その盲導犬ですら拒否されてしまうという残念な出来事がなくならない現実もあります。

 そんな日本という国で、衛生であることが重視される病院に、補助犬ではない“犬”がいる光景を見たら驚く人もいるのではないでしょうか。今回ご紹介する『犬が来る病院』(大塚敦子/KADOKAWA)は通常ではいるはずのない“犬”が患者とともに過ごす姿を目にすることができる病院のお話です。小児病棟にセラピー犬を受け入れることに日本で初めて成功した聖路加国際病院を舞台とした真実の物語なのです。

 著者の大塚敦子氏が追ったのは難病といわれる重い病と闘う4人の子供たちとその家族。そして、そんな子供たちの幸せだけを思って走り続ける病院スタッフの愛情と熱意ある取り組みです。

 余命いくばくもない一人の少女が漏らした「ワンちゃんに会いたい」という言葉。その夢を叶えてあげることができなかった病院スタッフたちの後悔の想いがセラピー犬の受け入れへと病院を動かします。

 セラピー犬は老人ホームや医療施設などを訪問して人の気持ちを前向きにしたり元気にしたりするために働く犬たちです。アメリカでは既に多くの活躍があり広く知られた存在となっています。

 感染症、噛みつきなどによる事故、アレルギー、他の患者やご家族からの理解という4つの難しい課題を目の前に、病院としての役割を果たしながらこの課題をクリアにし、約半年で実行した病院の姿から学ぶものは「できない」ではなく「どうすれば実行できるのか」と取り組む前向きかつ革新的な姿勢です。

 本書は著者が追った3年半の出来事を通して、病院のさまざまな取り組みによる子供たちへの効果、そして重い病気と闘う子供や愛する幼い子供の死と向き合った家族の姿に映る“生きること”の意味について感じ、考えさせられる内容となっています。

 登場する4人の子供のうち、2人は未来をつなぎましたが2人は幼いながらもその短い人生を終わらせました。生還した2人も亡くなってしまった2人も難病と闘う子供たちは苦しい時間のひと時を犬と過ごし、時に犬に笑顔をもらって過ごします。貴重な一日一瞬を病気のために病院の中でしか過ごすことができない子供たちは幼いながらに厳しい治療と闘う中でセラピー犬に生きる力をもらい、けなげなまでに強く病と闘い続けるのです。

 命の終わりが迫り心を閉ざした子供は犬により表情をやわらげスタッフに心を開きました。ある少女は病院に来ていた犬たちを、何も言わずに一頭一頭気持ちをこめて抱きしめると大量に抗癌剤を用いる治療へと立ち向かっていきました。幼い1人の少女がこの世を去った翌日に病院で開かれたお別れ会では横たわる少女のすぐそばに、その少女が一番可愛がった犬の姿がありました。

 心と心が寄り添う光景。それは決して特別なことではないはずなのに、この病院の光景はとても特別な光景なのです。

 生きることも死ぬことも人間に与えられたひとつのさだめです。そこにあるのは楽しいことばかりではありません。悲しいこと、怖いこと、想像以上に苦しいこともあるでしょう。そんなとき、そのひとつのさだめをどのように生きることができるのか、それは誰しも大きな課題となります。

 本書で紹介される子供たち、とりわけ命を落とした子供とそのご家族の姿には胸を締め付けるような悲嘆さがあります。子供が、けなげに頑張れば頑張るほど、その後の運命の厳しさにどうにもならない現実を感じずにはいられなくなるのです。

 そのような中、救いとなるのは子供たちが命ある最後のときまで“生きている”こと。そして、どんな運命を背負っていてもすべての子供たちが最後まで希望をもって生きることができるようにと精一杯に取り組み続ける人たちの姿です。

 ぜひ本書で、命に向き合う子供たち、犬が来る病院が私たちに教えてくれるさまざまなことに耳を傾けてみてください。

文=Chika Samon